「岩屋山式」と称される精美な石室。
類似する切石積石室の代表格であり、カテゴライズの象徴とも言える横穴式石室で知られます。もう何度も訪れていますが、令和の代を迎える直前に足を運んでみました。いつ行っても素晴らしい石室です。
岩屋山古墳の横穴式石室。
玄室の側壁は上段2枚、下段3枚の花崗岩で構成されています。見ての通り下段は垂直ですが、上段の石材はやや内側へ傾いています。奥壁の上下2段も同じような構成です。玄室の天井は巨大な一石で覆われていました。
精緻な技で造られた両袖式横穴式石室、これは必見です。
三界萬霊塔に建つ地蔵石仏から岩屋山古墳の墳丘見学
以前に訪れた時は、岩屋山古墳の墳丘に登りました。
東に近鉄電車の線路を見下ろし、視界が開けて爽快だったことを思い出します。今回の訪問では、方墳とも八角墳とも言われる岩屋山古墳の墳丘を近くから眺めて来ました。
岩屋山古墳の横穴式石室。
南に開口しています。
開口部の手前右手から墳丘へ上がって行くことができます。
岩屋山古墳の墳丘。
このアングルで墳丘を望むことが出来ました!
そのポイントになるのが、こちらの地蔵石仏。
近鉄飛鳥駅近くの線路を超えて西へ進むと、やがて右手に姿を現すお地蔵さんです。
赤い布を巻き、右手には錫杖を持ちます。地蔵菩薩の典型的スタイルですが、ややスマートな印象を受けます。
お地蔵さんの左手、その先に見えるのが岩屋山古墳の墳丘です。
以前まではここを通り過ぎて、岩屋山古墳の開口部へ向かっていました。これは勿体無い(笑) ちゃんと墳丘を見学することも出来たんですね。
地蔵菩薩の下には「三界萬霊」の文字が。
お寺などでよく見かける三界萬霊塔のことでしょうか。
三界萬霊塔に建つお地蔵さんを右手に見ながら坂道を上がり、岩屋山古墳の墳丘へと近づきます。
この角度から墳丘を見るのは初めてです。
東側から撮影していますが、二段築成の古墳であることが分かります。下段は方墳で間違いないようですが、上段の墳形に関しては意見が分かれるようです。方墳かはたまた八角墳なのか、未だにその決め手に欠けるようです。墳頂に木が植わっていますが、後で確認すると桜の木でした。4月末の古墳巡りだったため、残念ながら花は散っていました。
史跡岩屋山古墳。
石段を登り切ると、横穴式石室が開口しています。
岩屋山古墳は昭和43年(1968)に国の史跡に指定されています。
史跡岩屋山古墳の案内板。
墳丘の西半分は現在失われている。花崗岩の切石を用いて構築されている。
羨道南端の天井石には閉塞施設のための溝が切り込まれていることや、一段高くなっていることにも特徴がある。
また玄室南側の床面には、集水のための円形の掘り込みがあり、ここから、羨道のほぼ中軸に並行して排水溝が設けられている。
閉塞の溝跡と小さな三角形の飛鳥石
案内板にも記されていますが、かつて岩屋山古墳の石室は塞がれていたのでしょうか。
様々な古墳で閉塞石の存在は確認されていますが、岩屋山古墳にもあったのか?とても気になるところですね。
羨道南端の天井石。
確かに溝のようなものが見えます。
入口付近からですが、石材の間には漆喰も見られます。漆喰は造成当時には無く、後世に施されたもののようです。
この溝。
溝の幅は8cm、その深さは5cmを測ります。
閉塞石を嵌め込んだ跡であれば、床面にも何かの痕跡があるはずなのですが、今のところそれらしきものは見つかっていないようです。雨水が石室内に入り込むのを防ぐ水切りの役目を担っていたのではないかとも言われます。
精美な切石加工。
桜井市のムネサカ1号墳などは、岩屋山古墳と同じサイズで造られているようです。
岩屋山式横穴式石室は奈良県内にも幾つかあり、橿原市の小谷古墳や天理市の峯塚古墳は岩屋山古墳の縮小版だと言います。峯塚古墳の石室にも入ったことがありますが、”岩屋山式”を彷彿とさせる見事な空間でした。
玄室の奥壁と対峙します。
巨大な石材でありながら、持ち送りの構造になっていることが分かりますね。
飛鳥石特有の斑紋が見られます。
発掘調査では年代を示す遺物は見つからなかったようです。
石室の形態から築造時期は7世紀中頃と推定されます。
玄室の側壁。
小さな三角形の石が嵌め込まれていますね。
三方向からの圧力を受け止めているのでしょう。見事に分散させ、バランスを保っているように見えます。
ここにも三角形の石。
石室内のあちこちに、このようなミニ飛鳥石が踏ん張っていました。
開口部の右手から上がって行きます。
ちゃんと細い道が付いていました。
墳頂へ。
この真下に石室を包み込んでいます。
墳頂から見る西側。
昭和53年の水害により、以前から削平の見られた墳丘西側が崩壊しました。
東側を望みます。
景色が開けていますね。
墳丘の桜は葉桜の状態でした。
もう少し早く来れば、岩屋山古墳と桜の風景を楽しめたはずです。それにしても、墳丘の真上に咲く桜も珍しいのではないでしょうか。来年以降の楽しみに取っておきましょう。