春の木蓮や枝垂桜で有名な氷室神社。
初夏の太陽が照り付ける昼下がりに境内を散策していると、四脚門前の池に睡蓮が咲いていました。
氷室神社の鏡池に開花する睡蓮。
睡蓮(スイレン)という名前は、「睡(ねむる)」+「蓮」に由来しています。蓮の花にもよく似ていますが、ハスよりも少し小振りです。夏の朝に開花し、夜間になるとその花びらを閉じる習性を持ちます。馬のひづめを思わせる馬蹄(ばてい)形の葉と共に、夏の太陽によく似合う植物として知られます。
氷の神様に祈願する氷みくじ
氷室神社の近くには奈良国立博物館や東大寺があります。
鳥居前の大通りにはいつもたくさんの観光客が行き交います。とても賑やかなエリア内に鎮座していますが、かつては御蓋山麓に祀られていたようです。御蓋山の西麓では氷室の祭祀が行われていたそうで、毎年4月1日から9月30日まで平城宮に氷を献上したと伝えられます。氷室とはその名の通り、氷を蓄えておく倉を意味します。冷凍庫など無かった時代、氷は大変貴重なものであったのです。
氷室神社の氷みくじ。
氷の上におみくじを置くと、文字が浮かび上がってくるそうです。なんとも風情の感じられる演出ですね。拝殿前の社務所において、授与料200円にて購入することができます。
氷室神社は5月初旬に執り行われるひむろしらゆき祭でも知られます。全国のかき氷の名店が集い、「氷のまち奈良」をPRするイベントです。
何種類ものかき氷をそんなに一度に食べられるのかなとも思うのですが(笑)、頭がキーンとなってそれはそれで面白いのかもしれません。
緑色をした ”馬のひづめ” がたくさん浮かんでいますね(笑)
睡蓮は別名を「羊草(ひつじぐさ)」とも言います。この場合の羊は時刻の羊を意味しており、午後2時から3時頃には花を閉じてしまう睡蓮の特徴を言い表しています。
池の向こうの通りに観光バスが見えていますね、東大寺の駐車場へ向かうバスでしょうか。
純白の睡蓮。
観光案内所の方のお話によると、この池にはウシガエルも棲息しているようです。ウシガエルの鳴き声が聞こえてくるのも、氷室神社の名物の一つになっているとか(笑) じっと池の中を見つめてウシガエルを探しましたが、私が訪れたタイミングではその姿を見ることはできませんでした。その代りに、ザリガニが動いているのを見つけました。どうやら色々な生物が、この池から恩恵を受けているようです。
氷室神社の拝殿。
桜の季節には観桜芸能奉納なども催され、様々なイベントの舞台にもなっている場所です。
直線的に上へ向かって咲く睡蓮。
その尖った感じがまたイイですね。日照りが弱まってくると眠りに入る睡蓮・・・太陽と共にある睡蓮と、その太陽には滅法弱い氷の対比が面白いですね。
「ひつじぐさ」とはよく言ったものです。
子丑寅卯の十二支を数えていくと、ちょうど正午12時が午の刻に当たります。その後、午未申・・・と続いて行きます。未の刻と言えば、まだまだ太陽は高い位置にあるような気もしますが、睡蓮にとってはもうそろそろお暇する時間帯のようです。
氷の神様に未来を占って頂きます。
その視覚効果は単なるおみくじの上をいくこと間違いナシです。
ところで、氷室神社の祈願内容は多岐に渡り、お宮参り、厄除、七五三、商売繁盛、学業成就、家内安全など一通りの祈願は受付けされています。人生の節目節目に氷の神様に願い事をしてみるのもいいのではないでしょうか。
個人的な意見ですが、何かこう「氷解」をキーワードに祈願してみてもいいかもしれません。迷いを断ち切って、わだかまりを氷解させたい時って誰にでもありますよね。
舞殿横のナラノヤエザクラ
氷室神社境内には奈良の八重桜も植えられています。
奈良の奥深い文化を今に伝える桜として、地元民をはじめ観光客からも幅広く愛されている桜です。開花時期は4月下旬から5月上旬とされ、桜を愛でる期間を伸ばしてくれる有難い花でもあります。
拝殿・舞殿右手前から奥へ、二本のナラノヤエザクラが植わっています。
新緑の季節ということで、残念ながら開花しているところは見られませんでした。普通の桜よりも少し遅咲きで、八重桜にしては小振りの花のようです。県花にもなっている花ですから、来年は是非開花のタイミングで訪れてみたいと思います。
運が良ければ、ひむろしらゆき祭の時期にも咲いているのかもしれませんね。
氷室神社の直会殿。
直会(なおらい)とは祭典の後に、お神酒やお供え物のおさがりを皆で頂く場所です。屋根の下に横に渡された太い木が印象に残ります。昔の建物はスゴイですね、随分立派な材で造られています。氷室神社の直会殿は雅楽や舞楽の練習場としても利用されているようです。
その直会殿の前辺りに奈良の八重桜が植えられています。
奈良市章にもなっていると言いますから、よほど奈良の人はナラノヤエザクラがお好みなのでしょう。
参拝した当日は5月中旬以降とあって、日差しもかなり強く感じられます。
この照り返しの中で花を咲かせる睡蓮。その逞しさの源が知りたくなりますね、「暑い暑い」を連発している私自身が情けなくなります(笑)
うん?これは井戸ですね。
手水舎の横に井戸がありました。鎖にバケツが繋がれ、実際に汲み取ることができるようです。
鷹乃井と刻まれています。
鷹の井戸、その謂れが気になるところです。井戸というのは不思議なものです。家のリフォームなどでも、井戸だけは絶対に触ってはいけないという言い伝えがあります。井戸を無くしてしまうなんて以ての外とされます。古来より井戸には何かの「気」が宿るのかもしれません。
神饌殿の手前に駕籠のようなものが置かれていました。
これは神社のイベントで使われるものなのでしょうか。
こんな感じです。
神饌殿は神様へのお供え物を調える所なんだそうです。そんな建物の前に置かれた二つの駕籠には神紋のようなものも見られます。
氷室神社の鏡池。
池の水面を見渡してみると分かりますが、そんなに満開に咲いているというわけではありません。ぽつぽつと浮かんでいるのが見える程度なのですが、5月中旬といえば花の端境期に当たります。春日大社の藤、奈良の八重桜なども見頃を既に終えてしまっています。かと言って紫陽花にはまだ早い、そんな微妙な時期に咲く花ということで希少価値が高いのではないでしょうか。