談山神社の秘仏・談峯如意輪観音菩薩坐像を拝観して参りました。
足腰の病にご利益のある観音様で、「足の観音さま」と信奉されています。多武峰の紫陽花シーズンに合わせた観音講まつりで境内は賑わっていました。
談山神社の談峯如意輪観音坐像。
悩ましい姿態は如意輪観音ならではですね。像高は約50cmで、意外と小さな仏像です。
談山神社には藤原鎌足が祀られています。談峯如意輪観音の歴史には言い伝えがあって、この観音様は鎌足の長男・定慧和尚が唐の国から持ち帰ったものなんだそうです。それを鎌倉時代に模して作ったのが、現在目にしている二代目の如意輪観音とされます。
右足甲に傷を負った霊験あらたかな身代わり像
談峯如意輪観音の特徴は、何と言っても右足甲の傷です。
仏像を安置していたお堂が火災に遭遇した時、自らお堂の外に退避したという伝説が残ります。素晴らしいフットワークですね(笑)
談山神社の神廟拝所(しんびょうはいしょ)。
談峯如意輪観音が安置されている建物です。
談山神社のシンボルである木造十三重塔の模型が出迎えてくれました。談峯如意輪観音の特別公開期間は6月1日~7月31日までの二カ月間です。是非この機会をお見逃しなく!
右足の甲が痛々しくえぐれていますね。
両足の裏を合わせるようにして坐る輪王坐(りんのうざ)スタイル。
江戸時代の霊験譚を紐解くと、脚に膿がたまって歩けなくなった子供が居たそうです。そこで、仏像に祈るとたちどころに治ったと伝わります。そして、その仏像の同じ箇所がえぐれていたという最後のオチが付きます・・・。
その身を挺して子供の身代わりになった観音様。慈悲深い観音様の御心が、深くえぐれた足の傷を通してダイレクトに伝わってきます。
談山神社の境内図。
境内のあちこちに季節の紫陽花が咲いていました。
重要文化財の神廟拝所と、同じく重要文化財の十三重塔。
今回の目玉・談峯如意輪観音は、神廟拝所内の厨子に手厚く祀られていました。
神廟拝所の外陣に掲げられる大絵馬。
招福と書かれた瓢箪が描かれていますね。
談山神社は大化の改新ゆかりの地でもあります。中大兄皇子と藤原鎌足が談合した場所が、談山神社の裏手山中に残されています。神社の名前は「談山(たんざん)神社」ですが、「談山(かたらいやま)」という語感もまたイイですよね。
神廟拝所前にも紫陽花が開花していました。
秋の紅葉の名所として知られる談山神社ですが、初夏の紫陽花もお見事です。
さすがに矢田寺のお株を奪うところまではいきませんが、十分に楽しめるボリュームです。
6月の談山神社は秘仏開帳の他にも、恋愛成就祈願の鏡女王祭や中臣大祓式(除災祭事)などの祭典が組まれています。花の開花時期は概ね決まっていますので、そこに合わせて参拝客を呼び込むイベントが続きます。
重要文化財 神廟拝所(旧・講堂)
定慧(じょうえ)和尚が白鳳8年(679)父・鎌足公供養のため創建した妙楽寺の講堂で、塔の正面に仏堂をつくる伽藍の特色をもち、内部壁画には羅漢と天女の像が描かれている。現存のものは寛文8年(1668)の再建である。
神廟拝所の前には「けまりの庭」が広がります。
談山神社の祭事で最も有名なイベントが蹴鞠祭ではないでしょうか。古式に則って行われる蹴鞠は談山神社のイメージそのものです。
本殿の脇にも紫陽花が咲いていました。
私は以前、神廟拝所内の鎌足公神像を拝観させてもらったのですが、談峯如意輪観音は初めてです。
「談峯(だんぽう)」と冠する名の像は他にもあって、談峯龍神像という秘宝も収蔵されています。確か談峯龍神像はお正月シーズンに公開されていた記憶があります。「談山」と「多武峯」を掛け合わせて「談峯」という名前が誕生したのでしょう。音読みで濁音や破裂音を含んでおり、どこか格好いいネーミングですよね。
神廟拝所の縁側を伝って、扉の方へと進みます。
いよいよ談峯如意輪観音坐像とのご対面です。
談峯如意輪観音菩薩坐像。
観音開きの厨子の中にいらっしゃいました。
照明に照らされ、浮かび上がる観音様。
鎌倉時代前期の作とされる仏像です。光背と台座は室町時代の補作と伝わります。如意輪観音は六臂の異形像で、その内の一本の腕を頬付近に寄せています。さらに左の一手を体の後ろに付き、全体のバランスを取ります。
右ひざを立て、柔らかい姿態で蓮華座の上に坐します。
手にする持ち物も一般的な如意輪観音と同じようです。如意宝珠、念珠、輪宝、蓮華だと思われますが、唯一胸の前に持つ如意宝珠だけがよく確認できませんでした。
足の甲の傷が写真付きで案内されていました。
ボランティアガイドの方に促され、傷口の近くまで顔を寄せてみます。ごっそりと抉(えぐ)られており、信者の身代わりになったというその跡がはっきりと確認できました。
観音色紙。
1,000円で販売されていました。
この他にも、談峯如意輪観音の足がデザインされた足守も買い求めることができます。
一角の狛犬にも歴史を感じますね。
私が神廟拝所を拝観した際は、ボランティアガイドの方が常駐なさっていました。疑問点があればすぐに質問することができ、とても有難かったです。
しなやかな観音様ですが、その足の甲には揺るぎない信念が見て取れます。
足腰や膝の病にご利益があるとのこと、これからの高齢社会には頼れる存在ですね。
神廟拝所で勝軍地蔵と三十六歌仙図も拝観
重要文化財の神廟拝所の中には、秘仏以外の見所もたくさんあります。
神廟拝所の御本尊とも言うべき鎌足公御神像を中尊に、右側に勝軍地蔵、左側には不比等公像が祀られていました。
神廟拝所の壁画。
羅漢と天女が描かれる壁画も見逃せません。見上げれば格天井で、なかなか素敵な空間に包まれます。
勝軍地蔵の右脇に立て掛けられた屏風。
ストーリーが気になりましたが、ガイドの方は他の参拝客とお話中でした(笑)
壁際に掲げられる三十六歌仙図。
ずっと目で追っていきましたが、ずらりと建物内に並ぶ様は圧巻です。
先ほどの屏風・・・牛が表情を作っていますね。
男の人にも笑みがこぼれます。
勝軍地蔵。
中臣鎌足の化身と伝わります。
ガラスケースの中で大切に祀られていました。
眉間にも目があります!
いわゆる「第三の眼」でしょうか。
物事を射抜く第三の目は、いかにも勝負の神様にはふさわしい!
口髭と顎鬚をたくわえ、眉と目は吊り上がっています。
鎌足の化身とのことですが、見れば見るほど生き写しのような迫力を感じます。
鎌足公御神像。
数年前に訪れた時は、この白い幕が掛かっていなかったのですが・・・でも、この方が有難味が増すというものです。より神秘的に、さらにパワーアップしているような気が致します。
歴史を遡れば、飛鳥の藤原寺に祀られていたと言います。廃仏毀釈の流れの中、ここ談山神社に居を移しました。藤原寺といえば、鎌足公産湯の井戸を思い出しますね。
そして、鎌足公の左脇に不比等公像が祀られていました。
鎌足の次男坊・藤原不比等。こちらもガラスケースの中に安置されていました。
三十六歌仙図の木札。
三十六歌仙の扁額は安土桃山時代の作で、狩野重信筆・青蓮院尊純法親王書とされます。
スタンドマイクとスピーカー。
おそらくこの場所で、神廟拝所内の観光ガイドが行われるのでしょう。
いや~素晴らしいですね。
基本的に建物内は暗いのですが、所々に照明が付いていてイイ雰囲気が醸されます。
季節の花も彩りを添えます。
談峯如意輪観音の掛軸も目を引きますね。
談峯如意輪観音の霊験譚の一つには、出世話も伝えられています。
九條兼実の夢の中に登場した談峯如意輪観音・・・そこで出世を祈った兼実は、後に太政大臣にまで登り詰めることになります。出世のご利益にも授かれるようですね。
神仏習合のまつり 観音講祭のごあんない
談山神社では毎年6月第4日曜日・午前11時より、「談峯如意輪観音像」をお祀りし威徳を奉戴し、みなさま方の心願成就をご祈念致します、観音講祭を斎行しております。
祭典にご参列をご希望の方は、備え付けの用紙にお名前とご住所をご記入いただき、箱へお入れください。観音講祭のご案内をお送り致します。 談山神社社務所
談山神社の神紋・上り藤。
藤原氏の祖を祀る神社だけあって、その御紋にも藤の花が見られます。
十三重塔の模型の横には梵鐘が展示されていまいた。
なかなか歴史を感じさせる鐘です。
かつては実際に使われていたもののようです。
秘仏公開のイベント期間中にあっては、あくまでも脇役的存在です。
でも、何かこう魅かれるものがあります。
談山神社は元々お寺だったのです。
興福寺と仲が悪かったことはよく知られますが、同じ桜井市民としては肩入れしたくもなります(笑)
私も腰痛が気になり出す年齢になりました。
幸いにも足腰の悩みはまだありませんが、その内通る道なのかもしれません。談峯如意輪観音に初めて手を合わせ、まずはご挨拶を済ませることができて良かったです。