昨年度の早春、大安寺の馬頭観音に手を合わせて参りました。
馬頭観音とは馬の頭を冠する仏像のことですが、大安寺の馬頭観音には馬頭がありません。日本最古の馬頭観音像と言われますが、文化財的には千手観音に指定されているようです。
境内の嘶堂前の絵馬。
「厄除馬頭観音」と記されます。
胸飾りの瓔珞(ようらく)ですね。さらに腰に目をやると、野生的な獣皮をまとっています。千手観音とはいえ、その足首には蛇が巻き付き、原初の馬頭観音の姿を今に伝えます。嘶堂安置の馬頭観音立像は写真撮影禁止です。絵馬のイラストや特別拝観の看板などをまじえながら、そのお姿をご案内して参ります。
3月限定で特別公開される大安寺の秘仏
大安寺の馬頭観音を拝観する期間は一箇月間のみ!3月に限られています。
毎年3月1日から月末まで特別公開されます。
忿怒の表情で前方を見据える木造馬頭観音立像。そのお姿は計6本の手を持ち、胸の前で手を合わせる格好です。
嘶堂(いななきどう)。
重要文化財の馬頭観音を安置するお堂です。
本堂の裏手にあり、向かって左側には小子坊(しょうしぼう)、右手には護摩堂が並び建ちます。
馬頭観音立像の写真。
馬頭観音は ”馬の神格化” によって生み出された変化観音とされます。
昔の人の生活にとって馬は欠かせないものだったのでしょう。神社などでも「神馬(しんめ)」として祀られていますよね。馬が草を食むように、人の煩悩を食い尽くし、救済の手を差し伸べて下さいます。憤怒の形相ではありますが、その奥には観音ならではの慈悲が感じられます。
大安寺参道。
国道の西側へ入って行くと、大安寺の道案内が出ていました。かつては国家鎮護の官寺として栄えた大安寺ですが、少々分かりづらい場所にあります(笑)
大安寺の山門(南大門)。
今は小ぢんまりした門ですが、往時はかなり巨大な南大門が建っていたようです。
大安寺南大門跡の解説。
かつてここに、平城京大安寺の南大門がそびえ建っていました。発掘調査によって、「基壇」と呼ばれる土壇と、柱の基礎になる「礎石」を据え付けた跡が発見されたのです。
古建築では、柱と柱の間の数を「間(けん)」という言葉で数えます。この門は、正面が5間(柱が6本で、あいだが5つ)、奥行きが2間(柱が3本で、あいだが2つ)です。1間の長さは奈良時代の物差し(天平尺)で17尺(約5m)あります。全体では、正面85尺(約25m)、奥行き34尺(約10m)で、平城宮の正門「朱雀門」と同じです。基壇の前後には、中央3間分の幅で階段がついていました。
ここでは、基壇を復元整備して、上面に柱の位置を表示しています。基壇の上には、朱雀門のような堂々とした重層の門が建っていたと思われます。往時の威容を想像してみてください。
天平秘仏・馬頭観音特別開扉。
大安寺の歴史は、聖徳太子が建立した熊凝精舎(くまごりしょうじゃ)に端を発します。
大和の各地を転々とし、舒明天皇11年(639)に磯城郡百済川近くに移り「百済大寺」と称します。さらに天武天皇2年(673)には、高市(たかいち)に移って「高市大寺」と呼ばれました。後に「大官大寺」と称され、平城京遷都と共に移築され「大安寺」と名前を変えるに至ります。ずいぶん名称変更のあったお寺なんですね。
午の日厄除祈願法要。
午後2時から護摩堂、嘶堂において法要が営まれるようです。
山門を入ったところ。
本堂は左手にありました。
正面には楊柳観音を安置する讃仰殿(さんごうでん)が控えます。
讃仰殿はコンクリート造りの収蔵庫で、楊柳観音(ようりゅうかんのん)の他にも聖観音立像、不空羂索観音立像、四天王立像などが安置されます。これら9体の木彫仏は天平仏として崇められ、重要文化財に指定されています。大安寺も仏像の宝庫だったのですね。
大安寺本堂。
本堂内には御本尊の十一面観音が祀られます。
十一面観音立像(重文)も秘仏で、10月~11月にかけて公開されています。
やや赤みを帯びた、像高174cmの仏像です。
平城遷都後に造られたようです。
馬頭観音といえば三面八臂が一般的ですが、大安寺の馬頭観音のお顔は一面だけでしょうか。額によく見られる第三の目もありませんね。合わせた両手の指をよく見てみると、馬頭観音にありがちな馬口印も見られません。通常は人差し指と薬指を曲げて両掌を合わせるスタイルなのですが・・・この絵馬からも、指が伸び切っているのが分かりますね。
ご存知、大安寺は癌封じのお寺です。
1月23日に催される光仁会・笹酒祭りはあまりにも有名です。
境内で頂く笹酒ですが、長寿や癌封じに効能ありと伝えられます。
竹林の中に、母乳が出るというミルク塚が見えます。
様々な願い事を胸に、大安寺を訪れている人たちを思います。
特別拝観には、別途拝観の申し込みが必要です。
嘶堂の中に入ったのは今回が初めてでした。
平成9年度に完成したばかりのお堂です。どうりで他のお堂と比べると、新しさが際立っていました。
”馬の嘶(いなな)き” から命名されたのでしょう。
数年前の秋にお参りした際には、嘶堂前の紅葉が綺麗だったことを思い出します。
嘶堂前。
向こうに見えている建物は、写経道場の小子坊です。
特別拝観の案内。
拝観時間は9時~17時(16時まで受付)となっています。
特別拝観料は大人500円。滅多にない機会ですから、どうぞこの千載一遇のチャンスをお見逃しなく!
馬頭観音さまのお顔に近づきます。
厳しい表情をなさっていますね。
嘶堂内では、かなり至近距離から拝ませて頂くことができます。
足首に巻き付く蛇!
これぞ馬頭観音、と言える特徴なのかもしれませんね。
西の薬師寺に対し、東の大安寺と言われた時代があります。
その寺格の高さから、東大寺や西大寺に対する「南大寺」と称されたこともあります。南都七大寺として栄え、三論宗の根本道場でもありました。かつて南大門の前には東塔と西塔が聳え建ち、南大門、中門、金堂、講堂、食堂が一直線上に配置される大安寺式伽藍配置を誇っていたと言います。
平成17年(2005)には西塔の発掘調査が行われました。大規模な基壇が確認され、巨大な風鐸や相輪の水煙が出土しています。
大安寺はJR・近鉄奈良駅から少し離れており、バスでアクセスするのがおすすめです。
この春あなたも、日本最古の馬頭観音に会いに行きましょう!