世界遺産吉水神社書院の北側に、後醍醐天皇が京都へ向かって祈ったと伝えられる北闕門(ほっけつもん)があります。邪気払いのパワースポットとして人気を集める北闕門。
書院の庭北側に佇む北闕門。
北闕(ほっけつ)とは宮城の北門、あるいは宮城そのもの(皇居、禁中)を意味します。吉水神社は後醍醐天皇の南朝皇居でもあったことから、北闕門という名前が付けられたのでしょうか。吉野から見て、北に位置する京都への強い思いも感じられます。
ドーマンセーマンのおまじない
北闕門の手前に、格子状の印ドーマンと、星形の印セーマンが石に刻まれていました。
セーマンといえば、安倍晴明の五芒星を思い出します。陰陽師の安倍晴明を祀る桜井市の安倍文殊院でも、幾度となくそのシンボルである五芒星を目にしたことがあります。
左上にセーマン、右下にドーマンの印が刻まれます。
石の左側に何やら文字が見えますね。吉水神社書院の拝観パンフレットによれば、九字真法(くじしんぽう)の「臨(りん)・兵(ぴょう)・闘(とう)・者(しゃ)・皆(かい)・陣(じん)・烈(れつ)・在(ざい)・前(ぜん)」の文字のようです。
九字を切る護身の法ですね。
見晴らしの良い一目千本の展望台の右脇に、北闕門の案内ポスターが貼られていました。
国軸吉野(こくじくえしぬ)と書かれています。蔵王権現の安置される金峯山寺の山号が国軸山でしたね。黄金が埋まっていると言われ、極楽浄土の世界にも結びついていた金峯山寺はまさしく国の軸になる山寺だったのではないでしょうか。
北闕門の遥か彼方に金峯山寺蔵王堂を望みます。
この場所で九字を切り、あらゆる邪気を払います。
九字真法により九つの言葉を唱え、それに合わせて手を刀の型に見立て、空中に縦に四線、横に五線の空を切れば、どんな強敵をも恐れるに足らぬと言います。四縦五横に空を切る護身の法は、密教家や修験者、さらには忍者などにも広まりました。
九字真法の作法が案内されています。
一臨、二兵、三闘、四者、五皆、六陣、七烈、八在、九前の順番なんですね。
吉水神社拝観で邪気払いができるとは思ってもいませんでした。
吉水院(現在の吉水神社)は大峯山への入山許可書を発行する場所でした。
古来より山伏たちは北闕門で平穏無事を祈り、九字真法による邪気払いを行っていたと言われます。ドーマンセーマンでいえば、格子状のドーマンの方のおまじないですね。
パワースポット北闕門。
後醍醐天皇辞世の句に、「身はたとえ南山の苔に埋るとも、魂魄(こんぱく)は常に北闕の天を望まんと思う」が残されています。後醍醐天皇の胸中を察するに余りある歌ではないでしょうか。
桜の名所・一目千本。
私が吉水神社を訪れたのは1月だったため、残念ながら桜の風景を楽しむことはできませんでしたが、満開の頃の桜を思わせる見事なビュースポットです。
北闕門に設けられた賽銭箱。
網目模様のドーマンを見ていると、天罰を逃れることはできない「天網恢恢疎にして漏らさず」ではありませんが、入り組んだ網目のひとつひとつが邪悪なものを見張ってくれているような安心感があります。
一筆書きで星形をなぞると、自然とセーマンの形になります。
”必ず元の所へ還る”に掛けて、志摩地方の海女さんのおまじないにも使われていたと言います。海へ潜る前に、海女さんたちは龍宮へ連れて行かれないように祈りを捧げました。無限大を表す数字の8にも似て、どこか縁起の良さを感じさせます。
無事に帰還する。
何はともあれ、一番大切なことではないでしょうか。奈良市内に鎮座する率川神社の蛙石にも似たような願いが込められていたことを思い出します。
ユネスコ世界遺産に登録されている日本最古の書院建築「吉水神社書院」。
北闕門でお祈りをして振り返ると、左手に世界遺産の建築物が視界に入ります。
真正面から見る北闕門。
後醍醐天皇がお祈りをした場所。
吉水神社は第96代後醍醐天皇を御祭神とし、天皇の忠臣であった楠木正成、吉水院宗信法印(よしみずいん そうしんほういん)を合祀しています。
吉水神社拝観案内
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吉水神社
住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山579
拝観料:大人・大学生400円 高校生・中学生300円 小学生200円 団体割引(20名以上は1割引)
駐車場:有り
アクセス:近鉄大阪阿倍野橋駅~吉野駅(所要時間1時間30分)、近鉄京都駅~吉野駅(所要時間2時間)、近鉄名古屋駅~吉野駅(所要時間3時間30分) 近鉄吉野駅より吉野山ロープウェイで吉野山駅まで約5分、吉野山駅より徒歩20分