季節ごとに取り換える客室の掛軸。
じっくりと掛軸を見ることもありませんでしたが、あらゆる経済活動がストップした非常事態宣言下、ひょんな機会を頂くこととなりました。今まで気にも留めなかった掛軸の各部位・・・その名前を知ることになりました。
花咲か爺さんの掛軸。
桜の季節になると、必ず掛け替える掛軸です。
絵画の描かれた中心部分を「本紙(ほんし)」と言います。材質が紙のものを紙本(しほん)、絹のものは絹本(けんぽん)と呼びます。花咲か爺さんの頭上に、横一線の帯が掛かっていますね。この横帯は本紙の上下にあり、一文字(いちもんじ)と呼ばれる裂地です。上下に施された枠のようなもので、本紙の中身を際立たせます。
一文字と同じ柄の二本の風帯!掛軸を安定させる風鎮
掛軸をよく見てみると、上部から二本の縦帯がぶら下がっていることに気付きます。
風帯(ふうたい)と呼ばれる部位で、風になびくことで鳥が飛来して汚すのを防ぎます。ただ、現代においては実用的な意味合いは薄れています。かつて中国では、掛軸を屋外で鑑賞する習慣があったようです。そのため、実際に燕が飛来して掛軸を汚すこともあったのでしょう。風帯の別名を「驚燕(きょうえん)」と言い、どこか鹿威し(ししおどし)にも似た由来を感じますね。
掛軸の風帯(ふうたい)。
最上部の八双(はっそう)から下がる飾りで、一文字と同じ裂地で作られています。
実際にヒラヒラと垂れ下がる垂風帯(たれふうたい)ですが、天地(てんち)に貼り付けた「貼り風帯」もあります。一文字と同じ柄なので「一文字風帯」に分類されます。その一方で、一文字の上下のエリアに当たる「中廻し(ちゅうまわし)」と同じ裂地を用いた風帯を「中風帯」と言い、一文字風帯よりもワンランク下に位置付けられます。
こちらは桃太郎の掛軸。
掛軸には署名と落款があり、「玉峰」と記されていました。ちなみに花咲か爺さんの画も玉峰の手によります。
掛軸の風鎮(ふうちん)。
最下部の軸棒に下がる錘(おもり)のことを「風鎮」と言います。
両側に取り付けられ、掛軸全体を安定させる役割があります。ところが、年がら年中風鎮を吊り下げるのは良くないとされます。掛軸に負荷を掛け続けることになりますので、折を見て掛け替えていくようにしましょう。
風鎮を掛けるのは軸棒の両サイドに当たる軸先(じくさき)で、掛軸を巻く際に持つ部位としても知られます。
こちらは八方睨みの虎。
追いかけてくる虎の目線が気になります(^-^;
時代を映す衣文掛けから隣の間を見ます。
虎の掛軸には風帯も風鎮も見られません。6畳2間続きの客室に、一年365日ずっと飾られ続けます。
季節物の掛軸。
こちらは晩冬から春にかけて飾られる掛軸ですね。
布張り襖にも春夏秋冬が描かれます。
二間続きの客室を仕切るには、四枚の襖を並べます。そうすると、日本の四季が現れる仕組みです。
桃から生まれた桃太郎。
日本の昔話をモチーフにした掛軸もいいですね。
型板ガラス「ダイヤ」と掛軸。
レトロな雰囲気を醸す、今はもう廃番となったデザイン硝子です。
水を打ったように静まり返る世界各国の観光地。
新たな経済活動が望めない中、今あるものに焦点を当てる時期なのかもしれません。あらゆる業界で保有資産の見直しや棚卸しが進んでいくことでしょう。