馬見丘陵公園の菖蒲園に行って参りました。
梅雨空の元ではありましたが、ちょうど見頃を迎えた菖蒲園は多くの来園者で賑わっていました。
馬見丘陵公園の菖蒲園。
肥後系の青岳城(せいがくじょう)の向こうに、江戸系の波乗舟(なみのりぶね)が開花しています。花菖蒲と一口に言っても、様々な品種があるようです。菖蒲園の圃場(ほじょう)には品種名を示す木札が立っており、私のような素人でもその名前を知ることができます。
ハナショウブの特徴は花びらの中心の黄色い筋
何れ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)。
甲乙つけがたく、選択に迷う時などに使われる言葉として知られますよね。ハナショウブもカキツバタもどちらもアヤメ科に属しますが、その花びらの中心の模様を見れば判別することができます。花菖蒲の花弁の中心には黄色い筋模様が見られますが、杜若には白い筋模様が入っています。いずれアヤメかカキツバタ・・・その違いを見極めるポイントは花びらの中心にあります。
菖蒲園でよく目にする八つ橋が架かっていました。
団体入園者が賑やかにこちらに向かって来られます。
馬見丘陵公園では、毎年6月初旬に馬見花菖蒲まつりが開催されています。その開花時期は例年5月下旬から6月いっぱいまでとされます。3,000平方メートルの敷地内に約100品種3万株が群生する菖蒲園は必見です。花菖蒲と同時期には、あじさいの小径に咲く紫陽花が楽しめます。また盛夏になれば、夏の太陽によく似合うヒマワリも観賞することができます。
馬見丘陵公園の花園は、一年を通して私たちの目を楽しませてくれますね。
花菖蒲を特徴付ける花びらの中心の黄色い筋。
花菖蒲の別名を玉蝉花(ぎょくせんか)と言います。古来より端午の節句と結び付けられる花ですが、男の子の成長を願う気持ちが「尚武」「勝負」などの言葉を想起させるのでしょう。アヤメ科の中でも一番大きく、かつ華やかな花として好まれています。
紫明(しめい)。
名は体を表す。名前の如く、明るい紫色の花菖蒲ですね。
長い剣のような形をした緑色の葉っぱ。
どこか勇ましいその姿が「尚武」のキーワードにつながります。
芳香のある菖蒲の葉は、端午の節句に菖蒲湯として用いられていました。子供の遊びにも使われたようで、ショウブの葉を三つ打に平たく編んで棒状にし、それを互いに地上にたたきつけて切れた方が負けとする遊戯があったそうです。江戸時代に流行った菖蒲打ちと呼ばれるこの遊戯は、地面に叩き付けた音の大きさを競うものでもあり、男の子の競争心をあおる格好の遊びだったのかもしれませんね。さらには邪気を祓う、おまじないの意味合いも強かったものと思われます。
そんな雄々しい葉っぱを持つハナショウブ。
その形状からは、どこかチャンバラごっこに通じるものも感じさせます。それにしてもこの紫明、花びら自体にも綺麗な紫色のラインが入っています。花びらの幅もカキツバタよりも広いですよね。
中央エリアの公園館から菖蒲園を目指します。
位置的にはバラ園の手前にありますので、公園館からも徒歩2~3分でアクセスすることができます。
菖蒲園の入口。
石段を下りた所に広がるエリアが馬見丘陵公園の菖蒲園です。
花菖蒲の歴史を辿れば、江戸時代に流行した花であることが分かります。各地の武士階級によって様々な品種が作り出され、現在では主に江戸系、肥後系、伊勢系、長井系(長井古種)の4系統に分類されています。
それぞれの品種の違いですが、大まかに言って江戸系が本流で、肥後系と伊勢系が室内鑑賞向き、そして原種の特徴をより継承しているのが長井系ということになります。花菖蒲鑑賞の際には、頭の片隅に入れておくといいかもしれませんね。
菖蒲園の入口付近にシモツケの花が咲いていました。
小さい花が無数に群がっています。
バラ科のシモツケの案内板。
初夏に淡紅色の小花を新枝の先にむらがってつけるさまが美しく、庭にも植えられます。名前は下野の国(今の栃木県)で最初に発見されたことから。
なるほど、名前の由来は下野(しもつけ)の国にあったのか!
菖蒲園で一番最初に出迎えてくれたハナショウブ。
大きく垂れ下がった花びらが、まるでお辞儀をしてくれているようです(笑)
伊勢系の美吉野(みよしの)という品種です。
伊勢系のハナショウブは、三重県の松阪市を中心に鉢植えの室内鑑賞向きに栽培されてきた品種とされます。昭和27年には「イセショウブ」の名称で三重県指定天然記念物にもなっているそうです。お隣の三重県が、花菖蒲の一大産地であることを初めて知りました。
こちらは肥後系の晴姿(はれすがた)。
熊本県を中心に栽培されてきた一品種群ですね。名前の通り、実に晴れ晴れしい咲きっぷりです。
晴姿にも、花菖蒲の目印である黄色い筋が見られます。
花菖蒲の原産地は日本です。日本に自生していたノハナショウブを改良した宿根草が、今私たちの目の前に開花しているのです。長い歴史の中で品種改良が重ねられ、より艶やかな姿を鑑賞できるのは有難いことですよね。
五月の花札で知られる「菖蒲に八つ橋」
奈良県内にもハナショウブの名所はあり、滝谷花菖蒲園、柳生花しょうぶ園等が人気スポットになっています。
菖蒲園に付き物なのが、和の風情を醸す八つ橋ではないでしょうか。交互に平たい板橋が架けられ、その上を渡って見頃の花菖蒲を観賞するスタイルです。
菖蒲園に架けられる八つ橋。
この八つ橋があるお陰で、園の中央付近に咲くハナショウブも至近距離から楽しむことができます。段々に重なり、向こう岸の東屋(あずまや)へと続いています。
公園からのお願いが案内されていました。
危険ですので、園路や八つ橋から地面に降りたり、花菖蒲を植えている場所(圃場)に立ち入ったりしないでください。
奈良県馬見丘陵公園館
つい花菖蒲に夢中になっていると、花の姿をマクロ撮影で収めたくなる気持ちも分かります。しかしながら、そこは花菖蒲の生育への配慮が必要です。くれぐれも圃場(ほじょう)に降り立つことなどないよう、改めて注意したいですね。
ジグザグに架かる八つ橋。
いい感じで東屋方向へと伸びています。
八つ橋もそうですが、広い園内では全体のバランスを保つ上で東屋も無くてはならない存在です。ただ単に花菖蒲が咲いているだけでは、どこかボヤけてしまいます。ポイントが数箇所あるから全体が引き締まるのです。八つ橋と東屋のお陰で、主役の花菖蒲がより引き立って見えます。
八つ橋の足元。
頑丈な柱で支えられていますね。こうして見ると、結構な高さがあることが分かります。
花菖蒲の花言葉はずばり、「忍耐」です。
男の子の立身出世を願う端午の節句ならではですね。
江戸時代の武士階級に好まれた花ですから、侍魂に通じるものも感じられます。
江戸系の艶小町(つやこまち)。
花菖蒲の品種の中でも主流を行く江戸系ですね。
時代をさかのぼること江戸時代中期、日本初の花菖蒲園が葛飾堀切に開かれたと言います。当時の人々もまた、湿っぽい梅雨の時期に咲くハナショウブを心から愛でていたのでしょうね。
垂れ下がる花びら。
花菖蒲とよく似ている杜若などは、その英名がウサギの耳に因んでいます。杜若ほど垂れ下がってはいないのかもしれませんが、可愛く垂れ下がったウサギの耳を思わせる花びらではないでしょうか。
伊勢系の織姫(おりひめ)。
菖蒲園の周囲を巡る園路や八つ橋からも遠い距離に咲く花・・・そういう被写体は、望遠レンズで写真に収めます。
園路や八つ橋を行ったり来たりしながら、満開の花菖蒲をあらゆる角度から撮り続けます。
野鳥や古墳も見所の歴史自然公園
馬見丘陵公園の見所は花だけではありません。
公園の木々を目当てに訪れる野鳥や、ナガレ山古墳を中心とする古墳見学ができるのも人気のポイントとなっています。さらに北エリアには大型遊具などもあり、小さい子供を遊ばせることも可能です。ゆっくり寛げるカフェレストランも併設されており、一日中楽しめるレジャースポットとして注目を集めています。
公園館に展示される馬見丘陵公園の野鳥たち。
一番手前に写っているのはウグイスですね。
一年中観察できるコゲラ、メジロ、カルガモの他、冬にだけ訪れる渡り鳥なども要チェックです。
史跡乙女山古墳の立体模型。
復元されたナガレ山古墳の東側に屋外展示されていました。大きな括りでは前方後円墳なのですが、前方部がかなり小さいですよね。申し訳なさそうにちょこっとだけ付いている感じです。こういう形の古墳を帆立貝式古墳と言います。
花や鳥を愛でながら、歴史散策が楽しめるのも馬見丘陵公園の見所の一つです。
今回の馬見方面散策では、三吉石塚古墳の見学も予定に入っていました。
そのため、あまり長居することはできません。
とは言え、つい色々見てしまうのが悪い癖なんですよね(笑)
肥後系の鳳山(ほうざん)。
こちらはまた、随分豊かな花弁をしていますね。
なんだか寝グセが付いているみたい(笑)
あくびの声が聞こえて来そうです。
少しだけ見頃を過ぎているのでしょうか?
そのあたりの事情はよく分かりませんが、色々な開き方があって面白いですよね。見ていて飽きることがありません。
江戸系の相生(あいおい)。
白を基調にした花菖蒲もいいですね。
長井系の紬娘(つむぎむすめ)。
山形県長井市で栽培されてきた品種群とされます。江戸時代後期からの品種改良の影響を受けていない系統、それが長井系(長井古種)です。花菖蒲の中では最も原種に近い系統ということになりますね。
やや花弁は小さめでしょうか。
スマートな印象を受ける花菖蒲です。
ツムギムスメという名前からなのか、どこか可憐な雰囲気を纏います。
それにしても、花菖蒲は葉っぱが目立ちますね(笑)
花は綺麗で目を引くのですが、それ以上にシュッシュッと伸びる葉っぱの方が存在感があります。
肥後系の金剛城(こんごうじょう)。
先の尖がった葉っぱが、菖蒲園全体の7割ぐらいを占めている印象です。でも、このぐらいの配分がちょうどいいのかもしれませんね。引き合いに出して適当なのか分かりませんが、お正月料理の紅白なますなども人参が2で大根8の割合です。人によっては多少の差がありますが、概ね目立つ色合いの人参の量を抑えるのが普通です。そうすることによって、全体のバランスが取れるのです。
江戸時代から脈々と続く菖蒲園ですが、その美しさの秘密を見せられたような気が致します。