天理市守目堂町にある天理参考館。
天理参考館の歴史は、天理教2代目真柱の中山正善氏の時代にさかのぼります。その収蔵品は実に膨大で、整理できているものだけでも30万点に及ぶそうです。その内の3千点を展示しているのが天理参考館です。
「世界の生活文化」の中国・台湾コーナーに展示されていた皮影劇。
天理参考館は1階から3階までの構成で、それぞれ「世界の生活文化(1階)」「世界の生活文化(2階・日本を含む)」「世界の考古美術(3階)」に分かれます。見学を終えた感想としては、1階と2階は民俗博物館のような雰囲気で、生活に密着した風俗や習慣を学ぶことができます。そして3階部分は、やや高尚な印象を受ける美術鑑賞フロアとなっていました。
天理参考館。
天理教教会本部の南方に位置しています。天理参考館から見ると、東に天理大学、南には天理高校があります。
おぢばがえりの季節に天理の街並みを歩いたことがありますが、まさしくザ・天理と呼ぶにふさわしい場所に天理参考館は建っています。天理教ならではの建物の外観を仰ぎ、いよいよ正面玄関へと入って行きます。ちなみに駐車場はこの手前にあり、無料で停めることができます。期間によっては駐車場への入場・駐車が規制されることもあるようです。事前にチェックしておかれることをおすすめします。
朝鮮半島のチャンスン見学
天理参考館の正式名称は、「天理大学附属天理参考館」のようです。
天理大学の系列ミュージアムだったのですね。オリンピックのメダリストを数多く輩出する天理大学の名が冠されていることに気付かされます。天理参考館の入館料は大人400円、小・中学生200円となっていますが、学校法人天理大学設置学校の生徒に限り、学生証提示で入館が許可されているようです。
入館券売場が案内されていました。
エントランスホール向かって左手に受付があります。チケットは自動券売機で購入するシステムでした。私は後で知ることになったのですが、受付では音声ガイド機器の無料貸出も行われています。展示品をより詳しく知りたい方は、受付にて申し込みされることをオススメします。
天理参考館の入口右側に展示されるオルメカ石頭像。
インパクト絶大ですね!
謎に包まれた古代メキシコのオルメカ文明は、アメリカ大陸で最も初期に生まれた文明とされます。遥か大昔の、遠い大陸からの巨像が天理参考館のエントランスホール片隅に展示されていました。
朝鮮半島の村の守り神「チャンスン」。
一番奥のチャンスンに目を移すと、「大将軍」と書かれているのが分かります。いかにも強そうな名前を付けることで、邪悪なものの侵入を防いでいたようです。
天理参考館の数ある展示品の中で、一番最初に目にしたのがチャンスンでした。動物園などでも一番最初に出迎えてくれるフラミンゴに強い印象を覚えるものですが、チャンスンにも似たようなことが言えます(笑) 一種の結界を表すチャンスンが参考館の入口付近に展示されていることで、ミュージアム全体が守られているような気がします。
「天上天下」「東西南北」などの文字が見られますね。広域にわたって結界のパワーが行き届いていたのでしょう。
チャンスン(長生標)の解説パネル。
村の入口に立ち、外部からの災いを防いでいたことが記されます。また呪術的な意味合いだけではなく、行き先までの距離を示す道標としても役立っていたようです。チャンスンは合理的な役目も果たしていたのですね。
村人たちが力を合わせて作り上げたチャンスン。
木の切り出しから彫刻に至るまで、祈りを込めて行われる作業風景がビデオで紹介されていました。ちなみにチャンスンは、男女一対になっているようです。顔の表情も様々で、見ていて飽きることがありません。
中国の影絵人形芝居『皮影劇』
1階の中国・台湾コーナーでは、歴史ある中国の影絵が展示されていました。
影絵と言えば、奈良県立美術館に於いて「藤城清治 光のメルヘン展」を鑑賞してきたばかりです。日本の影絵とは趣を異にする中国の影絵に、しばし時を忘れて見入ってしまいました。
皮影劇の人形。
動物の皮をなめし、そこに彫刻や彩色が施されています。人形の手足には棒が付けられており、この棒を使って人形芝居が行われたようです。横から撮影してみましたが、かなり長細いですね。
皮影劇(影絵人形芝居)
灯りで人形の影を幕に透写する、歴史的に最も古い芝居です。頭飾りや目鼻立、彩色には、伝来された大陸のものとは微妙に変化していると云われます。広東・潮州地方の調子を基調にした音楽は、台湾の北部と南部で異なります。伝統的な芝居では、始めに「福禄寿」の人形を登場させ、聴衆への招福祈願を行います。昔の興業は、舞台にもなった小さな荷車に芝居道具を積んで移動していました。今日ではトラックが荷車にとって代わり、灯りも蛍光灯になって芝居内容も現代化しています。
こんな感じで投影されます。
人形をスクリーンに直接押し当てる操作方法が採られています。そのため、一瞬の変わり身なども可能となり、よりスピーディな演技が実現します。日本の影絵人形芝居とは、全く操作方法が異なるようですね。
舞台裏で皮影劇を演じる人たち。
スティック状の棒を壁に押し付けながら動かしています。
展示スペースの手前には案内ビデオが用意されていて、視聴したいビデオのボタンを押せば再生される仕組みです。静的な展示だけでは理解しづらい面もありますが、こうした動的なナビゲートによって理解が深まります。
ミニチュア模型も展示されていました。
「豚追い」の様子が立体的に蘇ります。昔の中国や台湾の生活風景が見事に描写されています。
中国の文字なし看板『幌子』も見所
中国北京の「幌子(こうし)」と呼ばれる看板も見所の一つです。
様々な商店の看板が展示されていて、これは何屋さんだろう?と想像しながら見る面白さがあります。看板と言っても、どこにも文字が見当たらないため、その形から色々思案を巡らします。
幌子(ホアンツ)と呼ばれる中国の看板。
左側が飲食店のものだったでしょうか、右側は洗剤屋を表しています。
洗剤屋と鞍・馬具屋を表す幌子。
洗剤屋の幌子が印象的ですね、洗剤の泡が表現されているのかもしれません。
幌子(ホアンツ)の解説。
中国では、商品の実物や模型、容器、画、あるいは商品を暗示する造り物の看板を幌子と呼んでいます。一見して売っている商品がわかる工夫が凝らされ、芸術性に富んだものも少なくありません。幌子には魚や蝙蝠(こうもり)などの図柄を装飾することが多く、下部に紅い布を吊り下げます。魚の発音は裕福の「裕」に通じることから豊かさを、蝙蝠の蝠は「福」に通じて幸福を意味する吉祥の図柄です。紅い布には、客への歓迎と店舗に禍を除いて福を招く意味があるとされ、好んで使われました。
英語案内の Shop signs without letters が、端的に ”幌子” を表していますね。
当時は識字率もそう高くはなかったのでしょう。漢字表記の看板では、何のお店なのか判断できない人も多かったものと思われます。一目見て分かる幌子は、一般庶民にとっても利便性が高かったのだと思います。
鞍・馬具屋の幌子。
誰が見てもそれと分かる広告看板ですね。
こちらは木賃宿の幌子。
幌子の特徴である紅い布が垂れ下がっていますね。我が国日本においても、古来より赤色は魔除けを意味していました。悪いものを遠ざけ、福を招くために ”赤” を使うところなどは共通の文化を感じます。
バリのコーナーでは、とある村落の縮小模型が展示されていました。
「1970年6月頃のトゥンガナン・プグリンシンガン村のたたずまい(100分の1模型)」と案内されています。綺麗に区画された家々が並び、村全体で力を合わせて生活していた様子が浮かび上がります。
定例祭「ウサバ・サンバー」に登場する回転式ブランコ。
面白い乗り物ですね(笑) 一年の大半を祭事や儀式に費やしていたそうです。
2階「世界の生活文化」と音声ガイド機器
1階で世界中の民俗文化を楽しんだ後、2階へ上がろうとするとスタッフの方から音声ガイドサービスのことを教えて頂きました。
音声ガイドを身に着けていれば、展示品の詳細内容を知ることができます。受付に戻って住所や名前を記入し、再び館内展示場へと舞い戻りました。
天理参考館の音声ガイド機器。
番号やスタートボタンが付いていますね。展示品の中でも特に重要なものには番号が振られていて、その番号を押してスタートボタンを押せば、イヤホンから展示品の説明が聞こえてくるという仕組みです。ピンポイントで学習したい方にはおすすめですね。
その一方で、ゆっくり自分のペースで楽しみたい方にはあまりオススメできないかもしれません。と言うのも、参考館の中を移動しながら次のコーナーへ足を踏み入れると同時に、自動的に新コーナーの概要がアナウンスされるのです。失礼ながら、「言われなくても見れば分かるよ」という気もします(笑)
館内での位置情報が把握されているようで、便利と言えば便利なのですが、余計な音に邪魔されることにもなりかねません。ちょっぴり集中力が削がれる懸念があります。
音声ガイド機器に少し戸惑いながらも、階段を上がって2階の「世界の生活文化」フロアへと足を伸ばします。
興福寺東金堂に伝わる獅子優填王図絵馬(ししうてんのうずえま)。
五重塔の横に建つ東金堂の御本尊・文殊菩薩は知恵を司る神様です。その乗り物である唐獅子が描かれているようですね。
唐獅子の手綱を握っているのは、優填王(うてんのう)です。
上下の一部が欠損した絵馬ではありますが、裏面には試験合格の祈願文が墨書されており、当時の学僧の思いが伝わってきます。
こちらは乳母車ですね。
ずいぶん歴史を感じさせます。
天理教の歴史を紹介するコーナーもありました。
海外での布教活動には、外国語が話せることが最低条件になります。
しかしながら、言葉だけでは十分ではありません。現地の風俗や習慣も併せて学ぶ必要があったのです。海外布教の人材育成に当たり、海外の生活文化に関する様々な物が集められることになりました。
天理参考館の歴史は、昭和5年(1930)に創設された海外事情参考品室に端を発しているそうです。
2階からエントランスホールを見下ろします。
順路に従えば、ここから3階へと通じる階段・エレベーターにつながっています。
天理参考館では、音楽を通して文化に触れるイベント「参考館メロディユー」が毎月1回行われているようですが、その音楽イベントの会場がエントランスホールです。2階から見下ろすような格好で楽しむことができるようですね。
まずはエントランスホールを見下ろしながら、ぐるっと反対方向へと回り込みます。
反対方向にあった図書コーナーと情報検索コーナー。
ここで書物に目を通してみるのもいいでしょう。
図書コーナーの隣には、休憩コーナーが用意されていました。
間仕切りの向こうには自動販売機が設置されており、コーヒーブレークで一息つけるようです。
唐三彩と画像石@3階「世界の考古美術」
いよいよ天理参考館のメイン展示場の三階へと上がります。
私が訪れた当日は、残念ながら企画展示が終わった直後でした。3階にはロビーを挟んで企画展示室が設けられており、会期中には様々な展示が楽しめるものと思われます。
3階へ上がると、入口手前のロビーに布留遺跡のコーナーがありました。
石上神宮で布留という地名を学びましたが、布留遺跡は縄文時代から続く遺跡です。
古墳時代になると、ここは古代豪族・物部氏の本拠地として栄えたことで知られます。奈良時代の墓から見つかった海獣葡萄鏡など、古代史ファンにとっては見所の多い遺跡です。
三彩神将。
厳めしい顔をした焼き物の人形が中心線上に展示されていました。
邪鬼が踏みつけられていますね。
人形の表面には緑色、茶色、白色の三色の釉(うわぐすり)が塗られています。墓の入口に置かれ、邪悪なものの侵入を防いでいたと言われます。
こちらは甕棺ですね。
この中に死者が葬られ、掘り進めた穴の中に埋められていました。甕棺一つとっても本物の迫力が感じられます。
墓を守る獅子でしょうか。
随分大きな石像です。
浮き彫りにされた画像石。
中国後漢時代によく見られる遺物です。
墓を守護する目的で彫られたものだと思われますが、その精巧な造りに目を奪われます。
天理参考館3階の休憩コーナーからは、教会本部を望むことができます。
教会本部からも程近い場所にあるのが分かりますね。
3階休憩コーナー。
この奥の薄暗い場所に、常設展示の「世界の考古美術」フロアが広がっています。
3階の休憩コーナーからは天理プールも見えました。
中学時代には水泳部に所属していた私。当時、奈良県大会が行われたのが天理プールでした。懐かしい思い出が蘇ります。
3階の世界の考古美術フロアでは、これらの他にも銅鐸、鬼瓦、甲骨文字、グデア像などが展示されていました。
イラクで発見されたという、紀元前22世紀の「閃緑岩製グデア頭像」などは必見です。世界でも約30体しか残っていないという、大変貴重な考古学資料です。向かって右側中央のオリエントコーナーに展示されています。
天理参考館の入館券。
天理教関連の博物館かと思いきや、天理教にまつわる展示品はごくわずかしか見られませんでした。当然のことですが、天理教信者でなくとも楽しむことができます。
世界中から集められた民俗文化のコレクションは、一見の価値があります。
世界を知り、日本を知る。その一助になることは間違いないでしょう。奈良県天理市に足を運んだなら、是非一度は訪れておきたいミュージアムです。
<天理参考館案内>
- 住所 :奈良県天理市守目堂町250番地
- 入館料 :大人400円、小・中学生200円 団体(20名以上)300円
- 開館時間:午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
- 休館日 :毎週火曜日
- アクセス:JR万葉まほろば線・近鉄天理線天理駅下車南東へ徒歩約30分。名阪国道天理東インターチェンジより南へ約3㎞。
- 駐車場 :有り(無料)