世界中の民俗歴史が学べる天理参考館。
大阪府吹田市にある国立民族学博物館も呼び声が高いですが、天理参考館の展示物も見応えたっぷりです。世界の生活文化を紹介する1階の入口近くに、剽軽な仮面が展示されていました。
天理参考館常設展の瓢箪仮面(パガジ)。
どこかコメディアンの志村けんが作る表情にも似ています。この仮面が瓢箪で作られているとは知る由もありませんでしたが、渡りに船ですね。仮面の近くには鑑賞用ビデオが用意されていて、実際にどのように使われているのかがよく理解できました。
僧と遊女で繰り広げられる風刺劇
朝鮮半島に伝わる代表的仮面劇を山台劇(さんだいげき)と言います。
今も韓国中部の京畿道(けいきどう)楊州に伝承されているようです。当時の特権階級を風刺する仮面劇を観ることによって、一般庶民の不満も少しは和らいだのでしょう。
僧と遊女の仮面コンビ。
通路のすぐ脇に展示されています。
観覧者との距離がかなり近いためでしょうか、人形に触ることは固く禁じられていました。当然と言えば当然ですよね、くれぐれも触れたりすることのないよう注意しましょう。
現在のパガジ(ひょうたん)仮面が案内されています。
17世紀、宮中で演じられていた仮面劇「山台都監劇(サンデトカムノリ)」の面影をよく残しているのが、ソウル近郊の村、楊州郡維楊里で継承されてきた仮面劇「楊州別山台劇(ヤンジュビョルサンデノリ)」です。
この劇に用いられている仮面は22面で、そのすべてがパガジで作られています。毎年、5月の端午の節句に野外仮面劇として当地の伝授館で演じられています。特権階級をからかうような風刺劇が題材となっています。
端午の節句に仮面劇は演じられるようですね。
野外で行われる仮面劇の様子がビデオでも流されていました。周りを多くの民衆が取り囲み、伝統劇を楽しむ姿から歴史を大切にする韓国人の思いが伝わって参ります。
この瓢箪仮面は、20世紀後半のもののようです。
冒頭の赤い仮面は、僧「モクチュン」を表しています。
モクチュンとペアを組むのが、こちらの遊女「エサダン」です。
基本的によく似た顔の造りをしていますね。
目尻が細く表現され、涙型になっているのが分かります。鼻もなぜか、凡庸な趣のロケット型です。
遊女は英語で Street girl と翻訳されます。
僧と遊女の掛け合いの中では、目を背けたくなるような場面も登場するようです。特権階級への皮肉が込められているのでしょうね。
韓国の仮面劇に関するビデオは3番と4番です。
画面の下にボタンがあって、視聴したいビデオの番号を押すと再生される仕組みです。朝鮮半島に伝わる守り神・チャンスンにまつわるビデオも見ることが出来ます。
瓢箪仮面の展示コーナーの横には、ノッポなチャンスンが展示されています。そのチャンスンの頭上に目をやると、何やら鳥のような姿を発見!
長い棒の先に鳥が止まっていますね。
やはりこの鳥にも魔除けの意味が込められているのでしょうか。橿原考古学研究所附属博物館の古墳時代コーナーにも、同じような鳥が展示されていたのを思い出します。概して昔の人々は、大空を翔る鳥に憧憬の念を抱いていたのかもしれませんね。
様々な種類のパガジが展示されていました。
お面の前には、仮面劇の際に奏でられる楽器が案内されています。仮面を被って舞うことにより、一種の念仏踊りにも似た恍惚感が得られるのかもしれません。
色々な役割分担があるようです。
今となっては詳細は不明ですが、こうやってパガジを眺めているだけでも作り手の魂が込められているような気がして参ります。
瓢箪とは実に不思議な植物です。
花を観賞したり、干瓢(かんぴょう)としてその実を食べたり、そうかと思えば中身をくり抜いて容器にしたりと、実に多様性に富みます。豊臣秀吉の馬印(うまじるし)にもなった千成瓢箪はあまりにも有名ですよね。何かと人々を惹き付ける瓢箪ですが、こうやって仮面としても利用されていたことを今回の見学で初めて知ることになりました。
天理参考館の1階展示会場では、朝鮮半島コーナーの他にもアイヌ、中国、台湾先住民、バリ、ボルネオ、インド、アジアの海・川、メキシコ・グアテマラ、パプアニューギニアの展示コーナーがそれぞれに用意されています。薄暗い照明の中に浮かび上がるパプアニューギニアの精霊像などは、見所満載の天理参考館を象徴しているようでもあります。