正暦寺の薬師会式にも歌われる御詠歌。
清酒発祥の地として名高い正暦寺ですが、その横を清冽な川が流れています。その名を菩提仙川と言い、酒造りにも欠かせない大切な水とされます。正暦寺は紅葉の名所ですが、同時に清酒醸造のルーツとしても知られています。
汲みてみよ 瑠璃の御壺(みつぼ)の 薬師水 諸病(やまい)を除く 深き誓いを
正暦寺の御詠歌が掲げられていました。
福寿院客殿の中に、本堂の絵と共に瑠璃光仰ぐ薬師如来様の有難い”薬師水”が詠われています。
東方薬師の清らかな石清水
酒を醸す歴史は大神神社をはじめ、各地で古くから伝えられています。
しかし、それらは皆「濁り酒」といった類のものです。清酒の原点はやはり、この山深い正暦寺にあるのです。
客殿の玄関口に積まれる酒樽。
正暦寺と酒は切っても切れない関係にあることがうかがえますね。
毎年4月18日には、正暦寺本堂に於いて薬師会式が執り行われます。そもそも薬師如来への信仰は、清らかな水から龍神(川の神)へ、さらには中国皇帝の東方を守護する青龍に移り、「東方薬師」という形で結実します。
奈良市の新薬師寺にも薬師如来が祀られていますが、本堂東方にあるステンドグラスから瑠璃光が漏れているのは象徴的です。
数寄屋風の客殿建築。
薬師会式当日には、境内で柴燈大護摩供養も行われます。
祈祷を受けた石清水ですが、一人2リットルまでなら持ち帰ることも出来るようです。
襖に描かれる三光鳥。
三光鳥(サンコウチョウ)は5月頃に飛来し、日本で繁殖した後、秋になると南方へ渡ります。春に渡来したときは雄の尾は長いのですが、秋に立ち去るときには、長い尾は無くなっていると言います。
鳴き声が特徴的で、「ツキヒホシホイホイホイ」と鳴くそうです(笑)
狩野永納の筆によります。
正暦寺の御本尊・薬師如来倚像は踏割蓮華の上に足を置いています。珍しい格好をしていることから、一度拝観すれば頭から離れることがありません。割と小さな仏像で、正暦寺が長年に渡り大切に守ってきた秘仏です。
御詠歌と襖。
菩提仙川の清らかな水があってこそ、今の正暦寺も存在するのでしょう。
”くみてみよ るりのみつぼの やくし水” 折に触れて口ずさんでみたい秀歌ですね。