天然氷の貯蔵庫。
遠く古墳時代からその存在を知られている氷室ですが、天理市福住町には復元氷室が常設展示されています。実際に現役で使われている氷室で、毎年7月の海の日には福住氷まつりが催されます。
福住町井之市にある復元氷室。
国道25号線沿いに古代の氷室が再現されていました。氷の神様と仰がれる都祁氷室神社からも程近く、福住町一帯で氷室がPRされているようです。実際に氷室を見学するのは初体験でした。残念ながら中には入れませんが、近くで農作業をなさっていた地元の方から色々お話をお伺いしました。
長屋王屋敷跡発掘調査で出土した『都祁氷室』の木簡
福住町の復元氷室は、平城京長屋王屋敷跡の調査で見つかった資料を基に再現されています。
オンザロックでお酒を嗜んでいたと言われる長屋王。
その昔、氷は大変貴重なものであったはずです。冬期に氷を作って保存し、夏になると朝廷に献上されていたと伝わります。
国道25号線沿いの復元氷室。
周囲に駐車場が見当たらなかったので、復元氷室前に路駐します。たまたま道路脇の畑でお仕事をなさっていた方からお声掛けを頂きました。地元にお住いのお爺様で、氷作りの苦労話などをお聞かせ頂きます・・・
寂びれた雰囲気の復元氷室。
この場所に昔から氷室があったわけではなく、あくまでも復元された氷室とのことでした。
本物の氷室跡は、福住中学校や福住小学校の裏手山中にあるようです。学校のグラウンド脇に「都祁氷室の旧跡」と書かれた看板が立っており、辺りを探してみたのですが発見には至りませんでした。もっと山中へ入って行くようです。実際の氷室跡は窪地になっているそうです。
復元氷室の右手に入口がありました。
ここから入って行きます。
緩やかに左へカーブし、復元氷室が姿を現します。
さすがに心なしかヒンヤリしていますね。
天理警察署福住駐在所の警ら表。
警らとは、警戒のために見回ることを意味します。
おそらく警察の見回りによって守られているのでしょう。
切妻造の茅葺屋根でしょうか。
真冬は降雪もあるエリアだと思われます。合理的な屋根の形態と言えるでしょう。
昭和63年に実施された平城京跡長屋王屋敷の発掘調査。
調査の過程で多数の木簡が出土し、その中から和銅5年(712)の「都祁氷室」と記された木簡が発見されました。これにより、福住の氷室から奈良の都へ氷が運ばれていた過去が明らかになりました。
日本書紀にも、都祁の氷室に関する起源説話が残されています。
かつて氷室は闘鶏(つげ)にあった・・・
古代文化の先進地域として栄えた都祁エリア。『允恭紀』には「闘鶏国造(つげのくにのみやつこ)」、『延喜式神名帳』には「都介(つげ)水分神社」などの記述が見られます。
復元氷室のすぐ横に小さな池がありました。
地熱を下げる効果もありそうですね。
毎年行われる福住氷まつりですが、2月11日の建国記念日に氷を収める慣わしです。そして、7月の海の日にその氷を取り出すというサイクルで行われています。
復元氷室の後方にはすぐ山が迫ります。
氷まつり当日の開会式では、氷室に残った氷の残量当てクイズが締め切られます。
毎年環境の変化によって、氷の残量にも多い少ないがあるようで、氷室開封の楽しみの一つにもなっています。
氷室神社宮司による神事が執り行われた後、参加者が順に氷室の中に入り残った氷を見学します。取り出された氷は子供たちによって道路まで運び出され、一部の氷は荷車に載せて福住小学校まで運ばれます。
百葉箱ですね。
細かな温度調節が行われているようです。
その後、福住小学校ではバザーや模擬店が開かれ、クイズの表彰式などで盛り上がります。
氷室の出入口らしき箇所が確認できますね。
一部色が変わっています。おそらくあそこから出入りするのでしょう。
復元氷室の周囲を巡り、通常はここから道路へ出るものと思われます。
この日はなぜか、通行止めになっていました。
氷作りの工程は、冬の間に池に張った氷を切り出すところから始まります。
ゆっくりと時間をかけて凍った氷の方が ”持ち” はいいようです。短時間で凍ってしまうと、氷室の中での長期保存が難しくなると言います。ゆっくりと結氷した大切な氷を切り出し、山に掘った大きな穴に貯蔵しておきます。その際、溶け出さないように茅などを被せて保存します。
海の日の氷まつり当日、ここから参加者が出入りするのでしょう。
今は固く閉ざされた、古代空間への入口です。
氷室の周りにはシートのようなものが敷かれています。
氷室のメカニズムはよく分かりませんが、今年も大量の氷が残っていることを祈ります。
国道25線沿いにある福住中学校。
郵便局の東側に通用門がありました。
都祁氷室の旧跡と書かれた立看板。
グラウンドの東側へ回り込むと、氷室跡を案内する看板が立っていました。
ここからさらに山中へ入って行く必要があるようです。
その情報が無かったので辺りをウロウロ(笑) 結局探し当てることは出来ませんでした。
再び復元氷室前。
奈良で氷室といえば、東大寺手前の氷室神社をまず思い浮かべます。
枝垂桜の名所であり、最近はかき氷イベントでも人気を博しています。奈良市の氷室神社にばかりスポットライトが当たっていますが、元祖氷室神社は天理市福住町の氷室神社であり、ゆかりの氷室が残されているのもここ福住町なのです。
そのことを忘れてはなりませんね。