春日大社の第六十次式年造替を祝って特別公開が続く境内。
6月1日から30日までの一箇月間に渡り、境内の景雲殿(けいうんでん)に於いて「御出現!春日大社の神獣」~800年を経て御本殿獅子・狛犬初公開~と題するイベントが開かれています。
記念クリアファイルと春日大社一之鳥居。
景雲殿前の拝観受付にて、獅子・狛犬8体の写真付きクリアファイルを購入致しました。お値段は350円です。景雲殿の中は写真撮影禁止ですので、神獣展の思い出におすすめです。
ちなみに一之鳥居にかざしているのは、春日大社本殿の第一殿を守護してきた獅子と狛犬です。春日四所明神(ししょみょうじん)と称される四柱の神様。その中で最も重要な位置を占める第一殿の武甕槌命(たけみかづちのみこと)を800年間守り続けてきた霊獣です。
金箔に覆われた木彫りの神獣
春日大社の本殿を守り続けた獅子狛犬は金箔に覆われていたと言います。
ボランティアガイドの方のお話によれば、向かって右側に阿形の獅子、左側には吽形の狛犬が陣取るのだそうです。どちらも神様を守護するために神前に置かれた霊獣ですが、角が無く口を開けているのが獅子で、角を持ち口を閉じているのが狛犬という見分け方をするようです。
春日大社景雲殿。
玄関前の両サイドに受付所が用意されています。景雲殿ってどんな場所なんだろう?と思ってお伺いしたところ、普段は舞の練習などに使われているそうです。
家に帰って来て、再びクリアファイルと記念撮影(笑)
第二殿を守護してきた獅子と狛犬です。経津主命(ふつぬしのみこと)をお守りしてきた神獣の姿ですが、第一殿のそれと比べると動的な印象を受けますね。特に阿形の獅子は上向き加減に吠えているようにも見えます。
獅子狛犬が乗っている台座にも注目してみましょう。
岩を象った岩座(いわざ)の下には、磯の形をした洲浜(すはま)が見られます。洲浜と岩座の組み合わせは大変珍しいようで、連綿と受け継がれた伝統文化を感じさせます。
春日大社の獅子狛犬には、金箔や彩色が施されていたと言います。
京都の石清水八幡宮の獅子狛犬などは、向かって右側の獅子が金箔、左側の狛犬には銀箔が貼られていたようです。しかしながら、春日大社の獅子狛犬はどちらも金箔で覆われています。これは極めて珍しく、春日大社ならではということです。
今回の特別展示では、神獣たちは見学者への配慮もあってやや斜め前を向いてディスプレイされています。ところが実際には、獅子と狛犬は神前でそれぞれ向き合うように配置されているそうです。
景雲殿前にも特別公開の看板が立っていました。
景雲殿の場所ですが、本殿西側に当たります。向かって右側には社務所が控えています。
春日大社二之鳥居手前を左側に進みます。
二の鳥居を通らずに、その手前の道を緩やかに上って行くと景雲殿の道案内が出ていました。結婚式の時に利用される貴賓館へと続く石段を上がり、そこから右に取ればすぐにアクセスできます。
春日大社移殿(うつしどの)。
御仮殿(おかりでん)とも呼ばれる建物で、国の重要文化財に指定されています。
この日は御仮殿特別参拝と併せて、景雲殿特別公開を見学致しました。
此処は式年造替に際し、神様がお移りになられている場所です。現在ご遷座されているとあって、辺りには並々ならぬ御神気が漂います。
獅子狛犬の起源と動物に秘められたパワー
動物には秘められたパワーがあります。
私たち人類は、時代の流れの中で絶えず進化を続けて参りました。「万物の霊長」なんて言葉もあります。私たち人類はそんなに偉いのでしょうか?昔の人たちは動物に畏れを感じていました。神様を畏れるのと同じように、言い知れぬチカラを感じていたものと思われます。
全てを支配してしまったかのように見える現代人。
異質なものに出会った時の感動や畏れを今一度、思い出してみるいい機会になるかもしれません。
景雲殿に展示されている獅子狛犬は想像上の動物です。実在しない動物でありながら、あちこちの神社仏閣で目にする内にあたかも実在しているかのような錯覚すら覚えます。ある種の親近感でもあり、畏れ多い畏怖の念でもあります。
獅子と狛犬の由来に関し、春日大社発行の冊子に興味深い一節がありましたので引用させて頂きます。
古代エジプトでは、ファラオ(王)と百獣の王ライオンが一体化し、スフィンクスという守護獣になりました。これがギリシャや中東を経てインドに伝わり、仏教と結び付いて仏を守護する霊獣・獅子となります。
一方、古代中国では、想像上の生き物ではありますが、麒麟や天禄(てんろく)など角を持った獣(辟邪へきじゃ)は、邪悪なものを避ける力がある霊獣だと考えられるようになります。諸説ありますが、これが狛犬(高麗犬)の原型ではないかといわれています。
獅子と狛犬の起源が、それぞれ簡潔に解説されていますね。
参道沿いの休憩処で一服します。
季節は初夏ということもあってか、修学旅行生の姿があちこちに見られます。
第三殿を守る獅子と狛犬。
第三殿の御祭神は天児屋根命(あめのこやねのみこと)ですね。
向かって右側の獅子は鎌倉時代の作で、左側の狛犬は室町時代の作とされます。
ちなみに第一殿、第二殿の獅子狛犬は全て鎌倉時代作とされます。第三殿の狛犬と第四殿の獅子計2体のみが室町時代で、あとの6体は鎌倉時代の作品です。
記念クリアファイルと影向の松のツーショット。
春日若宮おん祭では、頭屋児が陣取る影向の松。春日大社を語る上においては外せない場所です。そんな神聖なスポットにも、見劣りしない神獣たちではないでしょうか。
今回縁あって拝観させて頂きましたが、普段は神職や皇族しか入れない場所に居たことを思い出してほしいのです。長きに渡って雨風にさらされ、傷みが進んできたために ”お役御免” となった神獣たち。外遷宮(げせんぐう)を終えた2015年度夏に、めでたく本殿から取り下げられたことを記しておきます。
8体の獅子狛犬の今後の予定をお伺いしたところ、平成28年度秋にリニューアルオープンされる宝物殿に於いて展示されるとのことでした。
計4対の獅子狛犬は第六十次式年造替に伴い、完全に交代します。今後はピカピカの金箔に包まれた神獣たちが、気持ちも新たに御本殿を守護していくようです。
春日大社境内の鹿苑において公開中の子鹿。
物陰に隠れてひっそりと息をひそめる子鹿。もう少し成長すれば、鹿苑の芝生を所狭しと飛び跳ねるようになるのだそうです。なぜか休憩用のコンクリートにも鹿の子模様が見られますね(笑)
こちらは第四殿を守り続けてきた獅子と狛犬。
天児屋根命の后神・比売神(ひめがみ)を守護します。
お尻を持ち上げ、とてもダイナミックな印象を受ける獅子像ですね。
役目を終えた獅子狛犬たちを奈良国立博物館の上席研究員らが調べたところ、6体の制作時期が鎌倉時代に遡ることが判明しました。そのため、鎌倉後期の絵巻「春日権現験記」に描かれた獅子・狛犬のモデルになっていたのではと思われます。
神獣特別公開では、御本殿撤下(てっか)の獅子・狛犬の他にも、史料や絵画、獅子関連宝物、神鹿関連宝物、神馬関連宝物等々も展示されています。
牛頭天王曼荼羅衝立(平安時代)、神馬牽引図絵馬(江戸時代)、鹿座仏舎利(江戸時代)、さらには重要美術品の流鏑馬木像(鎌倉時代)なども見所の一つです。
特別公開のイベント期間中は無休です。
拝観料は300円(小学生以上一律)ですが、御仮殿特別参拝のチケットを提示すれば100円の割引を受けることができます。6月の奈良は、音楽の祭典「ムジークフェストなら」でも盛り上がりを見せます。梅雨時ではありますが、春日大社本殿を見守り続けて来た獅子・狛犬に会いに行きましょう!