今あるものを活かしていく。
観光業界などでもよく言われることです。新たな箱モノを造るのではなく、既にある観光資源を上手く組合せながら再編成していく。新たな価値を生み出すのに、潤沢な資金は必要ないのかもしれません。
大正楼客室の額縁絵画。
ブリコラージュという言葉を知ったのは野村克也氏の訃報です。
プロ野球の名選手にして名監督。「野村再生工場」と呼ばれた手腕は、各界からも高く評価されてきました。他球団をクビになった選手を引き受け、見事に蘇らせた名伯楽。その機知に富んだ手綱さばきに学ぶところは多いでしょう。
身近な材料を修繕するブリコルール!問われる再編力
ブリコラージュとは雑多な材料を寄せ集めて、自ら修繕を施していくことを意味します。
Bricolage(ブリコラージュ)はフランス語で、その語源はbricoler(ブリコレ;日曜大工をする)です。素人仕事の日曜大工ですが、あれこれ工夫しながら唯一無二の作品を仕上げていきます。そのプロセスは小気味良く、創造性に富んでいますよね。
料理を作る際にも、ブリコラージュは活用されます。
冷蔵庫の中にある食材から献立を考える。この過程こそがブリコラージュです。
最初に設計図に当たるレシピはありません。もちろん、食材を新たに買い出すこともしません。今あるもので料理を作るのです。改めて市場にも発注しません。今あるもので勝負します。なかなか難しいことですが、組合せ次第で何通りもの献立が生まれるはずです。
カチカチに固まった頭では出来ないでしょう。
献立を考える際には常に「遊び」の部分が必要で、常に”絶対”はありません。料理をしながらどこへ転ぶか分からない危うさをはらみます。でも、慣れていくことで自ずと着地点が見つかります。
中庭に咲くシャガ。
自然界の花だってブリコラージュの達人なのかもしれません。
その年の気候条件や周りの環境も変わります。そんな中で、毎年ほぼ決まった時期に花を咲かせます。卓越した調整力には驚かされます。様々な制約の中で当たり前のように開花する植物たち。
石目調の型板ガラス。
歴史ある古いものに価値を見出し、新たに再編していく作業。
奈良県は言わずと知れた日本の古都です。語り継がれる神話も数多くあります。
川の上流から流れてくる矢の話や、糸を辿って行くと神様に行き当たった、などのストーリー展開はすっかりお馴染みです。神話の体系もブリコラージュされているのです。各地で伝承されながら、様々に糊付けされて今に伝わります。ひとつひとつの伝説が寄せ集められ、修繕を加えながら一つの体系となっていきます。
こうであるべきだ。
最初にドンと目標を置かずに、身の回りを見渡しながら進んで行く。
日曜大工を楽しむが如く、安価な材料で器用に物を創り上げていく。そこに喜びを見出せれば、どんな時代でも生きていくことが出来るでしょう。
戦争にまつわる負の遺産や、廃墟を見学するツアーも人気だと聞きます。廃品を寄せ集めたジャンク・アートだって成立します。種々雑多なものを糊付けしたコラージュは意外性に富み、私たちを楽しませてくれます。
大層なものでなくてもいい。
まだはっきりイメージ出来るものはありませんが、私も観光業のbricoleur(ブリコルール;職人)を目指してみたい。コロナウィルスの感染拡大により、大揺れに揺れる昨今、コロナ後の展望に想いを膨らませます。