伝香寺の地蔵菩薩

筒井氏の総菩提所とされる南都伝香寺。

奈良市小川町にある伝香寺は、今まで参拝しようしようと思いながらも、つい後回しになっていたお寺でした。聖林寺や室生寺、それに霊山寺などのお地蔵様を拝観して参りましたが、それらと同じく大和地蔵十福霊場に名を連ねる伝香寺は、私にとって近くて遠いお寺でした。

伝香寺の地蔵菩薩立像

伝香寺の地蔵菩薩立像。

伝香寺にとっては客仏の仏像でありながら、「はだか地蔵尊」の名で親しまれる重要文化財です。裸形で彫られたお地蔵様で、お身体の上から衣服を着せられています。いわゆる着衣地蔵なわけですが、別名を春日地蔵とも言います。

伝香寺の裸地蔵!外れる錫杖と左手
奈良には着せ替え仏像がいらっしゃいます。鎌倉時代に流行したという着せ替え仏像ですが、要するに裸形像のことです。流れるような衣文を彫り込んだ仏像も素敵ですが、敢えて衣を彫刻せずに本物の衣を身に纏う裸形像もいいものです。伝香寺のはだか地蔵。世の...

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春日四所明神の本地仏

近年になって、はだか地蔵尊の体内から納入品が発見されました。

それによると、安貞2年(1228)の発願年記が願文にあったことから ”春日四所明神の本地仏” として造立されたことが判明しました。四柱の春日神、つまり藤原四所明神の本地仏として造立されたのが、この裸形地蔵菩薩であるということになります。神仏習合の思想から、神も仏も根源は同じであるという考え方が生まれるわけですが、春日大社の神様が、ここ伝香寺において地蔵菩薩の姿で私たちの前に現れます。

本地垂迹説に基づく発想には大変興味深いものがあります。

京都の石清水八幡宮には応神天皇が祀られていますが、八幡神は阿弥陀如来であり、応神天皇でもあります。大神神社境内を歩いていても気付くことですが、市杵島姫は弁財天であり、大国主は大黒天でもあります。また天照大神は大日如来であり、十一面観世音菩薩であるとも言われます。宇宙の中心に大日如来がいることを思えば、天照大神と並列されることも頷けます。

伝香寺本堂

重要文化財の伝香寺本堂。

天正13年(1585)の再興時に建立された建物です。

寄棟造・方三間の歴史を感じさせる建築物です。本堂内にはご本尊の釈迦如来坐像が安置されています。本尊の光背柄に仏師宗貞の名前と、酉年(1585)の記述があることから、豊臣秀吉が発願した京都方広寺大仏の試みの仏と伝えられます。

奈良の大仏を凌ぐスケールの大仏を夢見た秀吉。方広寺の鐘の横にあるお堂内で、当時の大仏の大きさを偲ばせる遺品を幾つか拝見させて頂いたことがありますが、伝香寺にも「試みの仏」が残されていたとは初めて知りました。

伝香寺の地蔵菩薩立像

裸形地蔵菩薩立像。

伝香寺のお地蔵様ですが、普段は本堂向かって左手の地蔵堂において拝観することができます。特別開扉日は7月23日の地蔵菩薩衣更法要(本堂)と、3月12日の本堂内拝観の年2回設けられています。

伝香寺の南無仏太子像

裸形地蔵菩薩像の左手に佇む南無仏太子像(奈良県指定有形文化財)。

伝香寺の太子像は、島左近が筒井家に奉納したものと伝えられます。

地蔵菩薩向かって右手には、筒井家に伝わる宝物が祀られていました。

伝香寺の弁財天

北門を入ってすぐ目に飛び込んでくる市守長者の弁財天。

北門の右手に拝観受付があって、そこで拝観料の300円を納めます。

受付の叔父様に拝観料を手渡すと、「南都伝香寺 参拝の栞」と書かれた紙を頂きます。地蔵堂にはどうやら鍵が掛けられているようで、「今開けて来ますから、少々お待ち下さい」とおっしゃられて足早に地蔵堂へと向かわれます。お戻りになられるのを待ってから、境内を案内して頂きました。

伝香寺の順慶堂

筒井順慶法印像が安置される順慶堂。

右手後方に見えているのは、やすらぎの道沿いに建つ伝香寺の表門(県文)です。

筒井順慶法印400年遠忌に当たる昭和58年、全国二百十余名の大和筒井家の子孫により全国筒井氏同族会が結成されました。その際に、筒井順慶座像と順慶堂が造立されました。伝香寺では今もなお、筒井家の追善供養が営まれています。

伝香寺の散り椿

順慶堂の手前に咲く散り椿。

伝香寺の見所の一つにもなっている「奈良三名椿」の一つです。

椿は英語でカメリア(camellia)。

株式会社三貴の「カメリアダイヤモンド」のCMが、なぜか耳に残っています(笑) 一度に落花するのではなく、一枚一枚と花弁が落ちていく様子はまるで宝石のような輝きを思わせます。椿の名所として知られる伝香寺ですが、伝香寺にお参りするなら、まずははだか地蔵に首を垂れることを忘れてはなりませんね。

釈迦入滅後に、未来仏の弥勒様が現れるまでには長い年月がかかります。

仏様のいないこの時期、苦しむ人々を救済して下さるのが地蔵菩薩様です。右手に錫杖を持ち、左手に宝珠を捧げるおなじみのポーズで、参拝客に優しく語り掛けます。

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