奈良には着せ替え仏像がいらっしゃいます。
鎌倉時代に流行したという着せ替え仏像ですが、要するに裸形像のことです。流れるような衣文を彫り込んだ仏像も素敵ですが、敢えて衣を彫刻せずに本物の衣を身に纏う裸形像もいいものです。
伝香寺のはだか地蔵。
世の中は広いものですね、本当に色々な仏像に出会うことができます。
重要文化財にも指定される地蔵菩薩立像(はだか地蔵)は、右手に持つ錫杖や左手が外れる仕組みになっています。確かに長い錫杖を持ったままでは服を着ることができませんよね。
7月23日の地蔵会で拝観
錫杖(しゃくじょう)とは、民衆の元へ降りて行く姿勢を見せる地蔵菩薩の象徴。
着せ替えのタイミングで取り外すことが可能になっているとは、何とも心憎い細工ではないでしょうか。
伝香寺の散り椿。
伝香寺は戦国大名・筒井順慶の菩提寺でもあります。
順慶の母が境内に植えたという珍しいツバキの名を、「散り椿」「武士椿(もののふつばき)」と言います。ボタッと花ごと落ちる一般的な品種とは違い、その花盛りに花びらが一枚ずつ散る姿に因んで付けられた名前です。
地面に散る武士椿。
取り外し可能な地蔵菩薩に、一枚ずつ散っていく散り椿・・・。
はだか地蔵の手にする錫杖ですが、錫杖は梵語の khakkhara に由来しています。
僧侶や修験者の持つ杖であり、地に引く時に錫々の音を立てることにちなみむようです。元はインドで僧侶が山野遊行する際、錫杖を振り鳴らして毒虫などを追い払ったと言います。今でいうクマ除けの鈴にも似た効果が期待されていたのではないでしょうか。
そんな大切な錫杖を、敢えて手放すことができるように造られているんですね。
伝香寺地蔵堂。
はだか地蔵を収めるお堂です。
左手も外れると言いますが、どの部分から取り外しが可能なのでしょうか。手首からか肘からなのか、はたまた肩からなのか。ちょっと気になるところですね(笑) まぁ袖を通すことを考えると、少なくとも肘から先ということになるのでしょうか。
裸形であるということは、写実性に富んだ仏像とも言えます。
毎年7月23日の地蔵会の際に着せ替えられる慣わしです。
はだか地蔵の歴史を辿れば、元は興福寺の尼僧寺院の本尊であったと伝わります。像内に納められた品から、春日大社の神様の本地仏(本当の姿)として1228年に造られたことが分かっています。
奈良公園の鹿が側溝に入っていました(笑)
中にドングリでも落ちているのでしょうか。
伝香寺のご本尊は釈迦如来です。はだか地蔵の方が有名になってしまっているので勘違いしてしまいそうですね。
はだか地蔵の像内には、願文・経巻・舎利・十一面観音小像・木造薬師如来坐像などが納められていたと言います。像内の品々も公開される日があり、3月12日の本堂内拝観の日には目にすることができます。これは要チェックですね。