国道169号線を桜井から奈良へ向けて走っていると、奈良市内に入る手前右側に緑の杜が見えて参ります。ちょうどこの辺りは、帯解寺へ向けて左折する南側に当たり、住所でいえば天理市内に位置しています。
森神社のケヤキ。
以前から気になっていたので、コーヒーブレークにかこつけて近くのコンビニで駐車し、徒歩で向かってみることに致しました。どうやら緑の杜の正体は「森神社」という名前の神社だったようで、その神域にはたくさんの槻(けやき)の木が植えられていました。
神聖な場に似合う槻(けやき)
ケヤキの語源は、古語の「けやけし」に由来しています。
素晴らしく際立っていることを意味する「けやけし」。槻の木は木目が美しく、材が堅いことで知られます。ニレ科ケヤキ属の落葉巨木であるケヤキですが、上代には槻(つき)と呼ばれていました。この「つき」という名前の由来も、「強木(つよき)」ではないかと言われます。
槻(けやき)の樹皮。
まるで魚の鱗を思わせる独特な形状をしています。はがれた樹皮の模様にしばし見入ります。
森神社の祠。
祠の傍らには大きな杉の木が立っていました。
かつては「森野大明神」と呼ばれた森神社。御祭神は亀卜の神とも言われる天児屋根命(あめのこやねのみこと)です。百済から壱岐に渡って来たと伝えられますが、朝廷からの信頼も厚かったのでしょうか、京都や奈良でも占いが行われていたようです。
鳥居の横にそびえるケヤキを境内から撮影。
神社によく似合うケヤキですが、清浄な槻(つき)のことを「斎槻(ゆつき)」と言います。かの有名な万葉集にも、
長谷(はつせ)の斎槻(ゆつき)が下にわが隠せる妻
と出ています。
神社や天皇陵などでよく見られる但し書きが、森神社の前にも掲げられていました。
古語辞典を紐解けば、「斎(ゆつ)」は接頭語であり、神聖・清浄の意を表す語と解説されています。神聖な岩石の群れを「ゆついはむら」、神聖な桂を「ゆつかつら」などと表現します。
森神社のケヤキの札。
何やら番号が振られていますね。人の手によって、しっかりと管理されているような印象を受けます。
槻の根元には大きなこぶ状の塊が見られました。
日本最古の本格的仏教寺院とされる飛鳥寺の西方には、大きなケヤキの木が立っていたと伝えられます。宴の場にも利用されていたようで、古代の人々にとっても重要な意味を持つ木であったことに間違いはありません。
森神社の鳥居。
奈良県内で見るこんもりとした緑の塊は、その大半が古墳か神社である、という通説はやはり本当だったようです。
森神社の住所は、奈良県天理市森本町字高岸178。
JR櫟本駅からのアクセスは、徒歩10分ほどです。周辺観光スポットとしては、弘仁寺、正暦寺、帯解寺などがおすすめです。