三輪山麓に祀られる水の神。
雨水を司るという淤加美神(おかみのかみ)を御祭神とする貴船神社。狭井川に程近い山の辺の道沿いに建ち、大神神社の末社とされます。
貴船神社の鳥居と祠。
かつて卯の日神事(大神祭)には、貴船神社に必ずお供えを上げて祝詞を奏上したと伝わります。祠の右手には”辺津磐座”の一つと思しき磐座が祀られます。
鉄が採れた三輪山!気生根の昇龍パワースポット
貴船神社といえば、京都の貴船神社を思い出します。
高龗神(たかおかみのかみ)を祀りますが、「龗(おかみ)」は水の神であり、龍神です。昇龍パワーを秘めた水神様(みずがみさま)だと言えるでしょう。
大神神社の貴船神社磐座。
ここ最近、三輪山麓のイワクラ巡りをしていてふと思うことがあります。
この磐座も磁石に反応するのだろうか?
かつて三輪山は鉄の採集地であったと伝わります。金屋や穴師といった地名が残り、その信憑性の高さをうかがわせます。三輪山の山頂から三分の一ぐらいの高さまでは、角閃斑礪岩(かくせんはんれいがん)という岩の層で出来ているようです。大量に鉄分を含んでおり、その岩が幾歳月をかけて山麓まで運ばれてきたのではないか?
今でも三輪山麓を流れる川では砂鉄が確認されています。
山麓沿いの大和川近くには金拆社というお社があります。199号慈恩寺三輪線の北側ですが、神社名に「金」が入っているのが気になりますね。さらに金拆社の南方には、欽明天皇の磯城島金刺宮跡があります。
社殿の右手に磐座が祀られています。
大神神社にはなでうさぎが居て、卯とは縁の深いお社です。今も毎月一回行われる卯の日神事はよく知られます。大神神社のホームページに記載されている「卯の日神事」の箇所を抜粋させて頂きます。
卯の日祭は崇神天皇が卯の日に大神祭(おおみわのまつり)を始められて以来、大神祭が「卯の日神事」と呼ばれるほどに卯の日がご神縁の日であり、その干支の日を大切にして毎月行われるものです。
貴船神社へ続く石段。
山の辺の道を玄賓庵へ向かう途中、右手へ上がって行く階段があります。目立たない場所ですが、アンテナを張っていれば見逃すことはありません。
祠右手前には切株もありました。
淤加美神(おかみのかみ)は、加具土命の飛び散る血から生まれています。
『古事記』の中のイザナギとイザナミのお話。イザナミは火の神・カグツチを生んで大火傷を負い亡くなります。悲しみに暮れたイザナギはカグツチの首をはねました!
飛び散った血や亡骸から、多くの神々が生まれたと云います。その中に、闇淤加美神(くらおかみのかみ)がいました。
水神の地に祀られる磐座。
「鉄は国家なり」と申します。
国力を計る上では、鉄の生産量が重視されました。産業界における一つの指針だったわけですが、古代日本においても同じことが言えたのかもしれませんね。
水が大切なのは言うまでもありません。
人の根源的願いである五穀豊穣の元になる水。雨水を司る龍神への信仰は全国各地に見られます。そこに加えて、古代国家が三輪山を中心として生まれた背景には、新たなピースである鉄の存在が見え隠れします。
磐座を目の前にして鉄と言うのもおかしな話ですが、あながち絵空事ではないような気がします。
三輪山の神である大物主命の娘は五十鈴姫です。私たちはいつも省略して「いすずひめ」と呼んでいますが、正式には「媛蹈鞴五十鈴媛命(ひめたたら いすずひめのみこと)」です。
イスズヒメは神武天皇と結婚しています。
今は橿原神宮の御祭神として祀られていますが、二人の出会いは三輪山麓の狭井川の畔です。今に語り継がれるササユリ伝説こそが二人の馴れ初めです。
そして、このイスズヒメの名前に「蹈鞴(たたら)」が見られます。製鉄に使われる蹈鞴ですね。炉に空気を送り込む送風機の名前が入っているのです。
神武天皇の権力と”鉄”が結び付いたのでしょうか。
磐座の前で手を合わせながら、とりとめもないことが頭をよぎりました。
貴船神社の「貴船」は、「気生根(きぶね)」「木生根(きぶね)」に由来すると言います。生命の源泉である”氣”が龍の如く立ち昇る場所。そこに淤加美神は祀られていました。
貴船神社の案内板。
御祭神 淤加美神(おかみのかみ)
御例祭 五月初卯日(御由緒)
御祭神は生命の根源である水の神で、雨水を司られます。また縁結びの神としても信仰され、夫婦円満・恋愛成就のご利益があるとされます。
神社の古い記録に、ご本社の大神祭おおみわさい(卯の日神事)の時には、必ずこの神社にもお供えを上げて祝詞を奏上したとあり、丁重に祀られてきました。
縁結びの神様でもあるようです。
夫婦岩やおだまき杉が大神神社の縁結びスポットとして知られますが、ここ貴船神社もご利益がありそうですね。
火気厳禁の看板。
神山(おやま)と読みます。
三輪山登拝を「おやまする」と言ったりしますが、敬意と親密度の入り混じる素敵な言葉ですね。
神武天皇聖蹟狭井河之上顕彰碑。
貴船神社から少し西へ下った所に、神武天皇の顕彰碑が建ちます。
顕彰碑からさらに下り、大美和の杜へ入って行けば、磐座巡りの奥垣内祭祀遺跡のイワクラがあります。