山深い「深吉野」に鎮座する鷲家八幡(わしかはちまん)神社。
東吉野村の道の駅『ひよしのさとマルシェ』で昼食を済ませ、そのまま徒歩で伊勢街道道標を目指します。かつての交通の要衝を見学する目的で歩いていると、右手に社叢を発見しました。そのまま細い参道を抜けて境内に入ります。
鷲家八幡神社。
檜皮葺の社殿に、鮮やかな朱色の瑞垣が映えます。
鷲家八幡神社の御祭神は三柱で、天照大神と八幡神(石清水八幡宮勧請)、春日神を祀っています。いわゆる三社託宣の神様ですね。室町時代に広く普及したという三社託宣。神道・儒教・仏教の三教融合思想に基づいているようです。
天然記念物のツルマンリョウ群生地!桂信子の句碑
鷲家八幡神社の境内は、ツルマンリョウの群生地とされます。
ツルマンリョウと言えば、大名持神社を懐に抱える妹山樹叢にも自生していたことを思い出します。手つかずの自然が残っていることに感謝ですね。
郵便局と民家の間に参道が通ります。
この辺りには天誅組の史跡も多く、歴史散策にはおすすめの場所です。
八幡神社の社号標の先に、太鼓橋が見えています。
どうやら川を渡るようですね。
鷲家川に架かる宮前橋。
向こう岸では二本の巨木が出迎えてくれます。
宮前橋の欄干の擬宝珠(ぎぼし)。
寺社建築でよく目にする意匠です。意のままに願い事を叶える如意宝珠に似せています。
幹に絡まる緑!
その間から本殿らしき建物が覗きます。
鷲家川に沿う境内。
下まで降りて行けるようになっていますが、とても綺麗な水ですね。
高所に祀られる鷲家八幡神社の御祭神。
二体の狛犬を配するのは、拝殿と言うには簡易な造りです。どことなく蕃塀(ばんぺい)にも似ていますね。伊勢神宮などではお馴染みですが、不浄除けの意味合いがあります。愛知県北西部の尾張地方でも散見される蕃塀ですが、鷲家八幡のこの塀にも惹かれるものがあります。
本殿向かって右下に祀られる境内社。
愛宕神社と蛭子神社のようです。
切妻の屋根に覆われ、神前には注連縄と紙垂が下ります。
境内社の前にも石鳥居が建ちます。
程よく苔生し、歴年の重みを感じさせます。
鷲家八幡神社の由緒書。
祭神は三柱で、天照皇大神・八幡大神・春日大神と案内されています。例祭は毎年10月15日に行われているようです。
当社の御祭神は、古来三社の託宣で名高い誉田別命(八幡大神)天照大神(伊勢大神)天児屋根命(春日大神)の三柱の神々を奉祀しており、住吉は大豆生、伊豆尾と共に合祀されていたが、約500年前これを別社として分祀した。
主神の八幡大神は、山城の國石清水八幡宮の御分神であり、古来厄除、開運の御神徳があり、広く庶民に親しみのある神様である。
社殿は檜皮葺、三間社、流造で、優雅と荘厳にして、社殿を囲む叢林の美と克く調和した神南備であり、20年目毎に御修理(御屋根葺き替え、塗装等)が施されている。
摂社 歓喜天・・・
鷲家大橋の脇に建つ社号標。
矢印付きの看板は、四郷方面のふるさと村、やはた温泉を指し示します。さらに山深い四郷エリアには、観光名所の七滝八壺があります。大自然に溶け込む段瀑(だんばく)で、東吉野村きっての人気スポットです。境内には桂信子の句碑もあるようですね。
天然記念物 八幡神社境内のツルマンリョウの群生地
昭和49年3月26日指定
ツルマンリョウは、ヤブコウジ科に属する暖地性の植物で、多少ツル状に茎が地面をはう形で成育する常緑の小低木である。7月上旬から8月上旬頃にかけて小さい黄白色の花が咲き、果実は球形で翌年9月頃紅熟する。奈良県のほか、台湾・鹿児島県の屋久島・山口県に自生分布する。このツルマンリョウの群生地は、約2アールにわたっており、全国的にその北限であり、かつ自生として非常に珍しく貴重なものである。
平成4年12月 奈良県教育委員会
桂信子(かつらのぶこ)の句碑。
桂信子は大阪市出身の俳人で、日野草城に師事しました。
おのづから伊勢みちとなる夏木立
鷲家八幡神社の鎮座地は、大宇陀と熊野を結ぶ要衝です。鷲家口には伊勢街道の道標も建ち、多くの人で賑わった場所であることがうかがえます。自然豊かな社叢は、そのまま旅人の目印になっていたことでしょう。
狛犬の台座に見えるのは社紋でしょうか。
蔓が伸びているところを見ると、ひょっとしてツルマンリョウでしょうか。しかも五弁花で、ツルマンリョウの花と一致します。
東吉野村鷲家(わしか)に鎮まる鷲家八幡神社。
鮮やかな社殿が目を引くお社ですね。自然豊かな場所であることは、ニホンオオカミ最後の捕獲地(鷲家口)が証明しています。