水の神・罔象女神(みずはのめのかみ)を祀る丹生川上神社中社。
鎮座地は東吉野村小(おむら)です。山深い高見川沿いにあり、毎年10月に行われる“小川祭り”で知られます。
この日私は、道の駅「ひよしのさとマルシェ」から車を走らせました。天誅組終焉の地碑を見学した後、東吉野村役場の手前で左折します。そのまま高見川沿いを上り、お目当ての中社に到着しました。
丹生川上神社中社のなでフクロウ。
拝殿右手にミステリアスな梟(ふくろう)が!
猛禽類のふくろうは鋭い目つきですが、この木像はキョトンとした目をしています。皆さんも可愛らしいなでふくろうを撫でて、ご利益に授かりましょう。
なでふくろうの祠に群がる蟻通明神
キュートな撫でふくろうに気を取られていると、蟻の行列に気付きませんでした(笑)
なでふくろうの祠に、見事なまでの「蟻通し(ありどおし)」が生じていました。丹生川上神社中社の上手には蟻通橋(ありどおしばし)があります。高瀬川に架かる橋で、本宮に通じています。おそらく延々と連なる吉野離宮詣での人並みを蟻に例えたのでしょう。
なでふくろうと蟻通し。
丹生川上神社中社の別称を「蟻通明神」「蟻通神社」と言います。泉佐野市にも紀貫之ゆかりの蟻通神社がありますが、各地に伝わる“蟻通し”伝説も、調べてみると面白そうですね。
覆い屋根に守られるなでフクロウ。
賽銭箱を前にしています。なでふくろうの背後には、樹齢1,000年余りの「叶(かなえ)の大杉」が聳えていました。
丹生のなでふくろう案内。
ふくろうは「不苦労」「福来朗」「幸福ろう」と書き物事を察知し、先を見通し知恵豊かな、しあわせをもたらす霊鳥として親しまれております。
この“なでふくろう”の頭、体、足などをなでて頂き御徳をお受け下さい。那智黒石にて謹製の『丹生のなでふくろう』又『ふくろう守り』も社務所にてお授けしております。
桜井市の大神神社にも「知恵ふくろう」がいます。
知恵ふくろうは特に撫でたりはしないのですが、同じく“不苦労”や“福来朗”に掛けられています。「若い時の苦労は買ってでもしろ」という言葉はもう古いのでしょうか(笑)出来ることなら苦労はしないに越したことはない、そんな考えでしょうか。負荷をかけた後の喜びも格別なんですけどね。
丹生川上神社中社の社号標。
丹生(にう)って面白い響きですよね。そもそも丹生は、「水生」が転訛・改字されたものだと言います。水を司る女神を祀る丹生川上神社中社には、ピッタリの語感ですね。
丹生川上神社中社の絵馬。
「水神宗社」と記し、黒馬・白馬が描かれています。
祈雨の黒馬に、止雨の白馬。日照り続きで降雨を願う黒馬と、長雨で困ったときには白馬に止雨を祈願したと言います。雨水の神は五穀豊穣にもつながり、歴代朝廷の崇敬も篤かったことでしょう。
拝殿の白幕には、天皇家を象徴する十六菊花紋が見られます。
丹生川上神社中社の背後には、約1ヘクタールにも及ぶツルマンリョウ自生地があります。非常に希少な植生であり、そのまんまの自然が残っている証拠とも言えるでしょう。
小牟漏岳(おむろがだけ;丹生川上神社の背後の山)
古事記によると、雄略天皇4年(460)、天皇が小牟漏岳で狩りをされ、御呉床に座られていると、虻が天皇の御腕を喰った。その瞬間、蜻蛉が飛んできて、その虻をくわえて飛び去った。天皇は蜻蛉をほめて御歌を詠み、この地を蜻蛉野(あきつの)と名付けられた。
み吉野の 袁牟漏が嶽に 猪鹿伏すと 誰れそ 大前に奏す やすみしし 我が大君の 猪鹿待つと 呉床に坐し 白袴の衣手著そなふ 手腓に 虻かきつき その虻を 蜻蛉早咋ひ かくの如 名に負はむと そらみつ 倭の國を 蜻蛉島とふ
日本書紀にもこのことが記されています。
小牟漏岳に続く山上に、神武天皇が上小野の榛原、下小野の榛原と名付けて皇祖天神を祀られた「鳥見霊畤跡」があります。 東吉野村
蜻蛉野(あきつの)にまつわるエピソードですが、五社トンネルを抜けた蜻蛉の滝にも伝わります。
また鳥見霊畤跡の畤(まつりのにわ)に関しては、桜井市の鳥見山麓に鎮座する等彌神社でも似たような話を聞きますね。
顔面の大きいフクロウが再現されていますね。
パラボラアンテナのような役割を果たすフクロウの顔盤(がんばん)。聴力が非常に優れ、雪の下で動くネズミを察知して獲物にしてしまうようです。
江戸時代の大名行列もちょうどこんな感じでしょうか。
小さい蟻がひっきりなしに動いています。偶然にも蟻通明神で出会えた蟻通し。これほどラッキーなことはないでしょう。間違いなく大吉の参拝日でした。
祠の横木にも蟻が連なります。
中社の見所は他にもあり、拝殿の左手には夫婦杉や木霊神社、爺婆石(じじばばいし)などが控えています。
なでふくろうの祠屋根は、一部苔生していました。
湿気を帯びた場所に生えるコケ。この「蒸す、生す」は「結ぶ」にも通じています。生命が誕生する瞬間、そこは程よく蒸しているのです。
丹生川上神社中社の「叶の大杉」。
両手を大杉に当て、願い事を唱えるようです。しっとりした木肌で、いかにも生きている!そんな感じがします。命が脈打つ大杉に祈願し、水神の中社を後にしました。