奈良県桜井市大福にデスマスクのお地蔵さんがいらっしゃいます。
決して有名な仏像ではありませんが、一度拝見すると忘れることのできない御顔をなさっています。お寺の方にお伺いすると、修復のために白く塗られたのではないかとのことでした。
大念寺地蔵堂に安置される泡子地蔵。
舟形光背を背にし、蓮台の上に座しておられます。誠に不躾ではございますが、宮崎駿アニメに登場するキャラクターを連想してしまいます(笑) 「千と千尋の神隠し」のカオナシ、あるいは「もののけ姫」のコダマが脳裏をよぎります。泡子地蔵を見た幼子(おさなご)が泣き出すこともあるそうで、その衝撃度を物語っています。
大念寺のアクセス道と駐車場
大念寺の門前には駐車場が用意されていますので、車でアクセスすることもできます。
今回、私は寺川沿いに車を停めて大福の町並みを歩きながら大念寺を目指しました。
融通念仏宗 旭楼山「大念寺」の山門。
泡子地蔵はこの山門の左手、地蔵堂の中に収められています。
大念寺へのアクセスは、ここの交差点を右折します。
交差点角の建物は大福交番です。進行方向西側の彼方に見えているのが耳成山。この道の左手には近鉄大阪線の線路が通っています。交番の横を通って北へ向かうと、昔ながらの町並みの残る大福エリアへと入って行きます。
しばらく進むと、右手に大福文化会館が見えて参りました。
入口には桜井市観光親善大使の水森かおりさんのポスターが貼られていました。ご当地演歌の女王が桜井市のために頑張っておられます。私たち桜井市民にとっては心強い味方ですね。
大福文化会館から程なく左手に大念寺の建物が見えて参ります。
山門の右手前には専用駐車場がありました。
周囲には住宅地が密集していますが、大念寺山門へと続く参道スペースだけはしっかりと確保されています。この場所だけは大念寺のために取ってある・・・何かそんな印象を受けました。
大念寺駐車場。
お寺の周辺は道も狭く、車でアクセスするには少し心細い気もするのですが、意外にもきちんと整備された駐車場が用意されています。これなら安心して大念寺にお参りができそうですね。
大念寺山門。
大念寺は元禄4年の1692年に建立された寺院です。
山門手前左側にある地蔵堂。
ひょっとしてこの中に泡子地蔵が安置されているのだろうか?そう思って、山門脇の呼び鈴を鳴らします。お寺の方が出て来られ、快く地蔵堂の引き戸を開けて下さいました。私が訪れた時は施錠もされていなかったようで、気軽にどうぞと応じて下さいました。この場をお借りてお礼申し上げます。
白いお顔をした鎌倉時代の仏像
大念寺の泡子地蔵は鎌倉時代のお地蔵さんです。
かつては旧初瀬街道と橘街道の交差点付近に祀られていたそうです。約2mほどもある地蔵石仏ですから、道行く人の目印にもなっていたことが想像されます。
やはり衝撃的ですね(笑)
泡子地蔵には元弘3年(1333年)の銘が刻まれています。
舟形光背に見える小さな地蔵が本尊に群がる童子を思わせます。泡子地蔵の名前の由来にもなっている六地蔵ですね。私は当初、この泡子(あわこ)という名前を聞いた時、幼くしてこの世を去った水子のことを意味しているのかなとも思ったのですが、真相のほどはいかがなものでしょうか。
右手には錫杖をお持ちになられているようです。
衆生を救うために皆の元に降りて来て下さる有り難いお方です。赤い布を襟元に掛けていますが、これには魔除けの意味が込められているのかもしれません。お経と思しき呪文のようなものが認められています。
舟形光背の小地蔵たち。
光背の頂には定印を結ぶ阿弥陀坐像、その左右に六地蔵が刻まれています。
地蔵堂の中に祀られているのは泡子地蔵だけではありません。
泡子地蔵の右側には、泡子地蔵より一回り小さい阿弥陀石仏が安置されます。阿弥陀石仏も同じく舟形光背を背負っているのですが、残念ながらその上部は欠けています。静かな表情の阿弥陀立像です。阿弥陀石仏には、安土桃山時代・慶長10年(1605年)の刻銘があります。
寺川に架かる橋。
橋の右手向こうに神山・三輪山を望みます。
大念寺への行き方ですが、先ほどの大福交番からアクセスする方法もありますが、その反対方向に当たるこちらの橋から行く方法もあります。三輪山を背にこの橋を渡り、大福の町へと入って行く道程です。向かって左側が車用の石橋、右側が歩行者用となっています。車の往来する石橋は歴史を感じさせる、実に味のある橋でした。
寺川沿いの道。
向こうに見える建物は桜井西中学校の校舎です。
大福の町の中。
昔ながらの道が続いています。
民家の軒下に鍾馗さんがいらっしゃいました。
普通は屋根の上に飾られている鍾馗さんですが、なぜか表札の横で睨みを利かせていました。
昭和の匂いがたっぷり残る看板。
時代の流れの中で取り外されることもなく、ずっとこの場所で庶民の生活と共に居続けます。
大念寺の地蔵堂前で、興味深い意匠を見つけました。
瑞兆の鳳凰でしょうか?
手前で白く光っている物体は木魚です(笑)
意図していたわけではないのですが、光の具合で見事にフェードアウトしています。これはこれで、どこか霊妙な写真が撮れて満足しています。
泡子地蔵は伊一派石大工の作品と伝えられます。
旅行ガイドブックに掲載されるわけでもなく、ひっそりと大福の町並みに溶け込むように佇みます。大念寺の場所を顧みれば、推古天皇小墾田の宮跡地と伝わる三十八柱神社のすぐ近くであることが分かります。
桜井市の観光名所も、まだまだ未発掘の場所がたくさんありそうです。
最後になりましたが、大念寺の周辺地図を掲載しておきます。どうぞご参照下さい。
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