石上神宮の鎮座地として知られる布留。
この布留(ふる)という地名の由来はどこから来ているのでしょうか。
神剣渡御祭が催される石上神宮拝殿。
拝殿前にはたくさんの参拝客が集います。
布留川の上流から流れてきた剣
昔話の桃太郎に、「川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました」という件が見られます。それとよく似たお話が布留の地にも伝えられます。
昔むかし、布留川の上流から一振りの剣(つるぎ)が泳ぐように流れてきました。
剣は流れながら、触れるものを次々に二つに切っていきました。
川の下流で洗濯をしていた娘が、ふと頭を上げて川上を見やると、岩や木を切りながら流れてくる剣が視界に入ります。すばやく避けようとしたその瞬間、洗いすすがれた白い布の中に剣が流れ込んでしまったのです。
石上神宮の茅の輪神事。
毎年6月30日になると、穢れを祓うために茅の輪をくぐります。
茅の輪神事と共に執り行われる石上神宮の神剣渡御祭。
五穀豊穣や悪霊退散を祈願する行事として知られ、神剣を石上神宮から末社の神田神社へと移します。太鼓を鳴らしながら渡御するので、通称「でんでん祭り」とも呼ばれています。
石上神宮の神剣が神田神社へと渡御します。
白い布の中に流れ込んでしまった剣。
布が切れてしまったかと思いきや、そのまま剣は布の中にぴたりと留まっているではありませんか。あらゆるものを二つに切って流れてきた鋭い剣が、白い布の中にすっぽりと収まっている。驚いた娘は、「これはただごとではない、神様のされることだ」と、さっそくその見事な剣を石上神宮に奉納しました。
夜都伎神社から石上神宮の杜へ入って来ると、右手に石上神宮周辺の地図が案内されていました。
「後醍醐天皇と馬魚伝説」と書かれていますね。
内山永久寺本堂前の池に投げ捨てられた馬の首のお話が、鏡池に棲むワタカと共に語り継がれています。
布で神剣を受け止めたエピソードだけでも印象的ですが、石上神宮には後醍醐天皇にまつわる逸話も残されているんですね。まさしく伝説に彩られるお社です。
国文学者の本居宣長は、石上(いそのかみ)の「イ」を接頭語と解釈し、「ソノカミ」を「古」を意味する言葉と説きました。
「垂仁紀」を紐解けば、大刀一千口を献じたとあり、石上神宮に兵器の神庫があったことを今に伝えています。
「ふる」という語感にも言い知れぬ奥深さを感じます。
神体や神輿などを移し動かすことを「振る」と表現します。
神剣渡御祭を見学しながら、遷座させることを「振る」と言うんだよな・・・と独り感慨に耽ります。あるいは、剣が布に「触る(ふる)」と掛けることもできます(笑)
石上神宮参拝の際には、布留という地名がどこから来たのか、頭の中に思い描きながらお参りされてみてはいかがでしょうか。