石燈籠にも色々な種類があります。
桃山時代の茶人・古田織部が創案した織部型石灯籠が、仁和寺の伽藍を守る九所明神の前に建てられていました。
九所明神の前に建つ織部型石灯籠。
織部型石灯籠の特徴を3点挙げておきます。
- 灯籠の竿を、直接土中に立てる埋め込み型
- 四角形の竿、火袋(ひぶくろ)、中台(ちゅうだい)を持つ
- 断面が長方形で、上部が十字形または膨らみを持った竿
これらの特徴に照らし合わしてみると、九所明神前の織部型石灯籠には、灯籠の基礎の部分があることが分かります。これは後になってから取り付けられたのでしょうか?
キリシタン灯籠の異名を持つ織部型石灯籠
竿(さお)を直接グサッと地中に埋め込むことにより、高さを調節することができた織部型石灯籠。いずれにせよ、上部に膨らみを持つ竿は、紛れもなく織部型石灯籠の特徴を表現しています。
地中にそのまま竿が埋もれていたとすると、田圃に立つ案山子が連想されます。
「朝から晩までただ立ち通しの一本足の案山子」を思わせる灯籠の出で立ちは、竿の上部の膨らみが案山子の広げた両手に重なるからでしょうか。
知恵の神様で知られる奈良の久延彦神社には、案山子が祀られていると言われます。じっと動かずに、その場の状況を見届け続ける案山子は、仁和寺を守り続ける社によく似合います。
九所明神の本殿。
重要文化財に指定される九所明神の社殿は、本殿・左殿・右殿の三棟から成ります。
本殿には八幡三神が祀られます。
東側の左殿には賀茂上下、日吉、武答、稲荷が祀られ、西側の右殿には松尾、平野、小日吉、木野嶋の計九座の明神が祀られています。仁和寺五重塔のさらに右奥、経蔵を下りてきた所に鎮まる九所明神。広大な寺域を誇る仁和寺の鎮守の神様としてここに居座り続けます。
九所明神拝殿の裏側から、三つ並んだ織部型石灯籠を望みます。
桃山時代に茶の湯が広まると、茶室の庭である露地が作られるようになり、夜の茶会を照らす道具が必要になりました。そこで、寺社に献灯されていた石灯籠が露地の照明に使われるようになっていったと言われます。
四角形の火袋には、織部灯籠ならではの趣が感じられますよね。
余計な装飾を施さず、自然に近い形でデザインされた織部型石灯籠。
簡素な中にも粋な雰囲気を残す灯籠は、多くの茶人たちにも愛されていたのではないでしょうか。
織部型石灯籠は、別名をマリア灯籠、または切支丹灯籠とも言います。
切支丹灯籠の名前の由来は、竿の円い部分にアルファベットを組み合わせた記号を陰刻し、その下に立像を浮き彫りにしたことに因みます。隠れキリシタンの尊像を思わせる灯籠だったことが想像されますね。
キリストの十字架と、案山子の十字架がここでも重なって見えてくるのも、不思議としか言いようがありません(笑)
九所明神拝殿と織部型石灯籠。
石灯籠という、寺社参拝では馴染みの深い物に今一度スポットライトを当ててみる。奥の深い京都観光を楽しむためには、新たな視点が必要です。織部型石灯籠にあなたなりの視点を加味して、じっくりと向き合ってみるのも面白いかもしれません。