密教における延命のご利益。
山の辺の道ハイキングの道すがら、弘法大師創建の長岳寺を訪れる人は多いものと思われます。長岳寺は大和十三佛第四番霊場にもなっていて、重要文化財の旧地蔵院本堂には普賢延命菩薩像が安置されています。
長岳寺の旧地蔵院本堂(延命殿)。
長岳寺の庫裏といえば、三輪そうめんを食べさせてくれる食事処として知られますが、その建物自体が旧地蔵院という名前で重要文化財に指定されています。室町時代の書院造りの様式を今に残し、心落ち着く空間が参拝客に開放されています。
阿弥陀三尊ばかりではない長岳寺の見所
玉願を嵌め込んだ阿弥陀仏で、国の重要文化財に指定されています。
”阿弥陀三尊の長岳寺” というイメージが強く、象の上に乗っかる普賢菩薩が祀られているとは知りませんでした。
旧地蔵院を上がった所の襖に、庫裏の持仏堂ご本尊・普賢延命菩薩像が描かれていました。
四頭の象の上に蓮を設け、その上に坐していらっしゃいます。
縁側の左側には室町時代の美しい庭園が広がります。
正面向こう側に見えているのが、普賢延命菩薩が安置される「延命殿」とも呼ばれる旧地蔵院本堂です。縁側に座ってぼんやりと庭を眺める時間も貴重ですね。
普賢菩薩といえば、文殊菩薩と共に釈迦如来の脇を固める仏像として知られます。
象にまたがる普賢菩薩を壷阪寺で拝観した記憶が蘇ります。慈悲の行を司り、一切菩薩の上首としても位置づけられる菩薩様です。
四頭の象が普賢延命菩薩を支えています。
躍動感あふれる象が描かれており、その牙の数はやはり六本のようですね。丸めた鼻に持っているのは密教の仏具である三鈷杵、あるいは五鈷杵でしょうか。四頭居るのは四天王と同じく、東西南北の四方向を守護する目的なのでしょうか。
延命殿の前に設けられた賽銭箱。
大和十三佛納め札の木箱も見られます。
賽銭の「賽」には神恩や仏恩に報いるという意味があり、神仏に感謝するために捧げる貨幣が賽銭ということになります。
地鎮のために銭を埋める習慣は昔からあり、大神神社の大神寺(おおみわでら、今の若宮社)や西大寺の地鎮には、実際に貨幣が埋められた歴史が伝わります。貨幣に願いを託すという意味では、どちらも同じ行いに通じるような気がします。
延命殿側から旧地蔵院を望みます。
鶴の絵が垣間見えますね。
旧地蔵院の庭園。
長岳寺の四十八ヶ坊あった塔の中で、唯一残った旧地蔵院。長岳寺の歴史の生き証人のような建物に身を置きながら、ゆっくりとした時間を過ごします。
現在のご本尊である本堂内の阿弥陀三尊や、藤原時代の傑作と称される多聞天・増長天に注目が集まりがちな長岳寺の仏像鑑賞。
鐘楼門をくぐる手前に佇む普賢延命菩薩にお参りする人は少ないのかもしれませんが、ここはひとつ、事前に情報をキャッチしておき「象の上に乗る普賢延命菩薩様」にご挨拶しておきましょう。