縁起の良い矢絣(やがすり)。
矢羽根模様の卒業袴は、意中の企業を射止めて卒業していく学生さんのお召し物にピッタリです。大神神社の結婚式でいつもお世話になっている婚礼貸衣装会社のアトリエステディさんを訪問して参りました。
矢絣の卒業袴。
近鉄奈良駅西の高天交差点から北へすぐの場所にあるアトリエステディさん。
ブライダル衣裳のみならず、成人式振袖や卒業式の絝も取り扱っておられます。
縁起物の矢!伝統文様や椿をデザインした衣裳
絣(かすり)とは、所々にかすったような感じの見られるデザインのことです。
矢絣文様からもそのような印象を受けますね。漢字の表記にも、飛白(かすり)という文字が見られるように、空白、あるいは間(ま)のようなものが独特の雰囲気を生み出します。
書道における達筆にもかすれた部分があり、かすれ声の八代亜紀さんの歌にも味わいがあります。かすれることによって、何とも言えない奥行きが生まれるのでしょう。
アトリエステディさんの玄関口で出迎えてくれる鹿。
鹿で思い出しましたが、鹿の子紋、鹿の子絞りなども綺麗な文様ですよね。でもやはり、定番の古典柄として矢絣文様は人気があるようです。
こちらは黒い桜ですね。
何ともシックな印象を与えます。
蝶も描かれています。数年前にブライダル産業フェアを見学させて頂いた時、向かい蝶の紋がデザインされた十二単の婚礼衣装を拝見したことがあります。家紋にも使われる向かい蝶の艶やかなデザインに、思わず足を止めてしまったのを思い出します。
やすらぎの道沿いにあるアトリエステディさん。
袴姿といえば、どうしても私の世代では「はいからさんが通る」を思い出してしまいます。
現代では卒業式のコスチュームとして定着している絝ですが、明治大正時代には教育の現場の制服として着用されていました。
ビルの5階にある絝振袖専用のサロン。
1階がブライダル関係のフロアで、卒業式の絝や成人式の振袖は5階に展示されています。
こちらは椿文様の卒業袴。
三輪山麓に古代より見られた椿の花。椿を見ると、三輪山のことが頭をよぎります。
卒業式のシーズンにもきっと合っているんでしょうね、椿のデザインされた卒業袴を何種類か見せて頂きました。春に行われる卒業式には、無くてはならない花なのかもしれません。
絝振袖サロン。
大きな鏡のある試着室も用意されていて、楽しみながら試着ができます。
ネイルですね。
小物類は販売用とのことでした。
私は今まで知らなかったのですが、卒業袴の袖は振袖の袖丈を少し短くした二尺袖なんだそうです。
卒業袴によく似合う籠巾着。
日本の歴史に溶け込んだ小粋なかばんですよね。
卒業袴を着て、籠巾着を手にする。もうそれだけで、タイムスリップしたような感覚が味わえるのではないでしょうか。
冒頭の矢絣文様ですが、千代紙の柄にもよく見られます。
奈良県内の昔の町並みが残るエリアを散策していた時、古い町家にも矢羽根模様を発見したことがあります。江戸時代には、結婚においても「射た矢は戻って来ない」ことから縁起物とされてきました。今でこそ、離婚(出戻り)の割合も増えていますが、当時はタブー視されていた面もあったのかもしれません。
こちらの文様も独創的です。
何を表している文様なのでしょうか。矢絣の卒業袴が定番なら、こういった想像を膨らませる卒業袴にはオリジナルの遊び心が感じられます。
定番の矢絣文様には、赤色と紫色があるようです。
紫色の矢絣文様は歌舞伎における腰元の衣装にも見られ、定番中の定番といったところでしょうか。個人的な見解では、やはり赤色の矢絣がおすすめです。祝い事を象徴する紅白に勝るものはありません。結婚披露宴の席で紅白を見慣れているせいか、どうしても紅白のものを贔屓にしてしまいます。
当館大正楼でも、毎年春になると、天理大学の卒業式で卒業生のご両親にお泊り頂くことがあります。子を持つ親なら、誰しも子供の晴れ姿を目に焼き付けておきたいものですよね。