庶民信仰によって歴史を紡いできた元興寺。
夏の桔梗や秋の萩、それに国宝建築物の極楽坊(本堂)・禅室、本尊の智光曼荼羅などが見所のお寺です。歴史的佇まいを見せる奈良町の中心観光スポットとして、いつも数多くの観光客で賑わっています。
元興寺の桔梗。
旧講堂礎石の周りに、爽やかなブルーの桔梗が開花していました。元興寺の桔梗の見頃は6月上旬~8月上旬頃とされます。一般的に桔梗の開花時期は9月までと言われますから、秋口になってもまだ楽しめるのではないでしょうか。
桔梗とマリーゴールドの寄せ植え
澄んだ青色の桔梗が咲き誇る境内。
ブルーの桔梗と共に目に付いたのが黄色い花です。本堂・極楽坊と禅室に並行するように居並ぶ石仏群の中に、桔梗と共に黄色い花の群生が見られます。黄色い花は桔梗を引き立てるための脇役的存在なんだろうと思いつつ、その花の名前が気になりました。
桔梗と波斯菊(ハルシャギク)。
元興寺の境内は、東門を入ってすぐに本堂の極楽坊があります。そして、その奥に連なるように禅室が伸びています。この二つの建物はかつての僧坊で、昔はお互いに繋がっていたようです。どちらも国宝に指定されており、元興寺の中枢を担います。
極楽坊左手の浮図田(花壇)には桔梗とハルシャギク、そして禅室左手の浮図田には桔梗とマリーゴールドが植えられています。桔梗はどちらのエリアにも植えられていますが、黄色い花のハルシャギクとマリーゴールドに関しては植え分けがされているようです。
桔梗と一緒に植えられるマリーゴールド。
石仏の合間に見える黄色い花がマリーゴールドです。
桔梗を栽培するに当たり、注意しなければならない害虫に線虫(センチュウ)がいます。目に見えないセンチュウは根に寄生する害虫とされます。そのセンチュウを予防するために、寄せ植えとしてマリーゴールドが植えられているそうです。
こちらがマリーゴールドです。
毎年この場所に桔梗の花を咲かせるために、様々な試みが行われているようですね。元興寺拝観の滞在時間は2時間弱でしたが、その間もずっと業者の方が菌を撒かれていました。
専門的なことはよく分かりませんが、散布に費やされる労力も相当なものだと思われます。
本堂・禅室と収蔵庫の間に居並ぶ石仏群。その合間を埋め尽くすように桔梗やハルシャギク(波斯菊)、それにマリーゴールドが植えられています。散布による独特な匂いが辺りに立込めていました。決して嫌な臭いではなかったので気にはならなかったのですが、この香りは何だろう?と作業員のお兄さんに声を掛けて教えて頂きました。
桔梗の成育にとって、線虫退治は避けては通れない道のようです。
石仏が隠れるぐらいに、マリーゴールドの茎や葉が伸びていますね。この後、マリーゴールドは根こそぎ取り除かれるのだそうです。お役御免、といったところでしょうか。
元興神と地蔵会!整然とした浮図田に咲く五角形の花
実に2,500基もの石仏や石塔が並ぶ浮図田(ふとでん)。
寺内、及び周辺地域から石仏が集められ、新たに田圃の稲の如くに整備された ”浮図田”。そこは元興寺を象徴する場所でもあります。浄土を願った聖域に咲く桔梗には、昔の人々の思いも重なってきます。
元興寺の東門。
世界遺産元興寺の玄関口です。
拝観受付で拝観料の500円を納め、飛鳥の法興寺を前身とする元興寺境内へと向かいます。
拝観・本堂の案内札。
外国人旅行客の増加に伴い、寺社での英語案内もあちこちで見られるようになりましたね。
本堂が main hall なのは分かりますが、拝観は inspection と訳されるのでしょうか。inspection と言うと、「検査」のイメージが強いのですが・・・表記法にもまだばらつきがあるのかもしれませんね。今朝の新聞紙面にも、日本の温泉マークが外国人観光客に誤解を与える可能性が示唆されていました。外国人の方が温泉マークを見ると、温かい料理の提供をイメージするとのことでした。誤解を招いてはいけないので、旧来の温泉記号に人を表すデザインが加えられ、新たな温泉マークとされるようです。
元興寺極楽坊と蓮。
極楽坊の前に、鉢植えの蓮が並べられていました。
元興寺収蔵庫(法輪館)。
収蔵庫の前にも桔梗の花が咲いていました。
法輪館は奈良時代の国宝・五重小塔を安置する建物です。五重小塔は国分寺の塔の十分の一に相当する雛形とも言われ、かつては極楽坊の床を落として収蔵されていたと伝わります。精密な設計図など無かった時代に、五重塔を再現するために作られた雛形だったのでしょうか。バラバラに分解することも出来るようで、その精巧な造りは見る者を圧倒します。
仏足石の脇に祀られる石仏。
青色の桔梗が涼感を誘います。蒸し暑い時期に見るブルーは、一服の清涼剤でもあります。
見事な五角形ですね。
品の良い姿をしているからなのでしょうか、その花言葉は「誠実」とされます。桔梗は古来より愛されてきた花で、家紋にも数多くデザインされています。かの坂本龍馬の家紋も「組み合せ角に桔梗紋」で、紋の真ん中に桔梗の花があしらわれています。
ペンタゴンではありませんが、どこか整然とした印象が重なりますね。
言われてみれば、絵馬も五角形ですよね。
元興寺にまつわる鬼・元興神(ガゴゼ)が描かれた絵馬です。「厄除子守」の朱印が押されています。
整然と並ぶ浮図田の手前に、ぷくりと膨らむ桔梗の蕾。
開花を待つタイミングの桔梗もいいものですね。
白い桔梗も開花していました。
桔梗は本来、草地に生える山野草です。時代の流れと共に園芸種も増え続け、別名「むらさきばな」と呼ばれる青紫色をした桔梗の他にも、淡紅色や白色の品種も見られるようになりました。ダブル咲き種もあるようで、一度この目で見てみたいなと思わせます。
県指定文化財・小子坊の手前にあった手水処。
竹筒の脇に桔梗の花が寄り添います。身を清める場所にもよく似合う花ではないでしょうか。
その昔、近場から寄せ集められたという石仏群。
卒塔婆のような形が浮き彫りになっているのが見て取れます。
庶民の中の様々な思いが詰まった石仏なんだろうと思います。毎年8月23日、24日に行われる地蔵会は元興寺の主要行事の内の一つです。奉納演奏や屋台の出店で賑わい、浮図田には灯明皿が並べられます。その頃にもまだ、桔梗の花はわずかに残っているのかもしれませんね。
この他にも拝観受付の手前には、扇供養で知られる扇塚があります。
物を大切にする気持ちは、現代のSDGsにも通じるものを感じます。猿沢池や興福寺五重塔にも割と近い元興寺。小ぢんまりした境内に、世界遺産の歴史が流れていました。