京都祇園祭の山鉾に、修験道の開祖・役行者にまつわる山が存在していました。
細い路地の奥に設けられた町家風情の会所。
祇園祭の会所には各山鉾の御神体や懸装品が飾られ、後祭山鉾巡行に備えた準備が着々と進められているようでした。
役行者山の会所。
山鉾の山には御神体の他にも、御幣、水引、前懸、胴懸、角金具、角房、見送などの装飾が施されます。絢爛豪華な品々を前に、美術館の展示品でも観ているかのような錯覚に陥ります。
肩凝りと腰痛にご利益のある役行者腰掛石
会所の路地を入って行くと、左手に受付があり、その正面には蔵のような建物がありました。
突き当り正面の蔵の前に目をやると、何やら不思議な石が鎮座しているではありませんか。
これはパワーストーンでしょうか?
役行者神腰掛け石。
歴史に名を残す偉人には、なぜか腰掛石が言い伝えられます。奈良県安堵町に伝わる聖徳太子の腰掛石、東大寺の守り神・手向山八幡宮境内で見かけた菅原道真の腰掛石は記憶に新しいところです。注連縄に紙垂が垂れ下がり、この石が普通の石ではないことをうかがわせます。
役行者神腰掛石の案内板。
この石は今より1300有余年前、役行者神が金剛葛城の峰々や大峯山で捨て身の修業に励んだ後、生地茅原の里から井戸伝いにこの地に駆け上がり、この石に座し精神修行をされた有り難い石です。また役行者神は、この石に手を当て全身の凝りを解したとされています。皆様もこの石に手を当てて、役行者神の精神と御徳をいただかれ、全身の凝り、特に肩の凝りなどを解される事を心よりお祈り致します。
公益財団法人役行者山保存会による説明書きです。
奈良県御所市茅原に役行者生誕の地と伝わる吉祥草寺があります。
吉祥草寺の境内に役行者産湯の井戸があったことを思い出します。腰掛石に書かれている「井戸伝いにこの地に駆け上がり」とは、正しくその産湯の井戸を指しているのでしょうか。歴史ロマンに誘われるパワーストーンが、ここ役行者山に鎮まります。
腰掛石の右上部が階段状になっていますね。
人の体の似姿なのでしょうか、上部が肩で下部は腰に当たるようです。肩凝りと腰痛にご利益のあるパワーストーンであることが案内されています。春先からゴールデンウイークに掛けて立ち仕事が続いたこともあり、ちょっとした腰痛が続いていました。これはラッキーと思い、「腰痛」と書かれた箇所を優しく撫でておきました。
目、肩、腰に問題を抱える現代人。
役行者山会所にあるこのパワーストーンが、少しでも体の不調を和らげてくれることを願います。
役行者、一言主神、葛城神が御神体の役行者山
役行者山には役行者、一言主神、葛城神の三柱の神様が祀られています。
修験道の開祖である役行者が、一言主神を使って葛城と大峰の間に石橋を架けたという伝説を題材にしています。
役行者を中心に据え、向かって右側に葛城神、左側に一言主神を祀ります。
室町通沿いに建つ役行者山。
役行者山のある場所は、室町通三条上ル役行者町です。
室町通を鯉山、黒主山、役行者山と順に北へ向かいます。後祭十ケ町のスタンプラリーが行われており、集印の地図を片手に会所巡りを楽しんでみました。
祇園祭後祭の会所めぐりスタンプラリーマップ。
二重丸の印のある鈴鹿山、黒主山の2箇所は、後祭巡行記念手拭いを渡してくれる場所です。私は順序良く回ったわけではなかったので、結構ウロウロしてしまいました(笑) 10箇所のご利益巡りの最後に「鈴鹿山」を設定するのがおすすめです。行ったり来たりしながら楽しむのもいいですが、やはり効率良く回るに越したことはありませんね。
地図の左側の長方形で囲われたところに、各会所のスタンプのデザインが描かれています。役行者山のスタンプは上から二番目、右側の法螺貝ですね。山伏や修験道のシンボル・法螺貝がデザインされていることに納得です。
役行者山の駒札。
提灯には三つ巴紋、八坂神社の御神紋、役行者山の御神紋が見られます。
この赤い紋が、役行者山の輪宝紋です。
中央から剣のような形をしたものが外へ向かって出ています。
6つの剣で表される六剣輪宝でしょうか。
仏教と共に日本に伝来した輪宝(りんぽう)。輪宝とは古代インドの武器のことですが、インドでは理想の王・転輪聖王(てんりんしょうおう)が持っていた七宝の一つとされます。輪宝を回すことによって四方を治めたと伝えられます。
仏様が法輪を転がす様にも派生し、輪宝は法輪とも言われています。輪宝を転がすことによって、障害となるものを破壊し、心の中の邪悪なものまで壊していくと信じられています。天下無敵の輪宝紋が役行者山を守ります。
役行者山の会所へ続く路地。
京都でよく見られる建物の造りですね。
役行者山の水引は、西山勘七作の「唐子遊戯図(からこゆうぎず)」綴錦とされます。
前懸は牡丹胡蝶文と雲龍文との3枚継ぎで、見送は「金地唐美人遊図(きんじとうびじんゆうず)」綴錦です。角房の飾金具は黒漆塗板に28宿の金具を打った独特なものです。欄縁は雲龍文の透高浮彫の細工が前面にびっしり施されています。
ご存知のように祇園祭には、山と鉾が出ます。
役行者山は「山」に分類されるわけですが、山は元来、山岳信仰から発生しています。古代の民間信仰では、山の岩や木を依り代として神様が降臨すると考えられていました。大神神社の磐座信仰を思えば、同じ流れをくんでいることが分かります。三輪山が御神体の大神神社ですが、祇園祭の山にも自然界を模した山が建てられています。祭礼用に造られた山の頂上に、依り代としての松の木が立っているのです。祇園祭の案内パンフレットにも、「山の構造」の欄に「真松」として紹介されています。
山と鉾の違いは何なのか?よく話題に上るテーマですが、祇園祭における山と鉾との違いは、依り代の松があるかどうかの一点で見分けます。神様との交信における仲介役を担う依り代。真松を介して、天から神が降りて来るのです。
ここに御神体が祀られているのでしょうか。
中を確認し忘れ、今となっては不明です。しっかり見ておけば良かったなと少し後悔しています(笑)
祇園祭にヒオウギを生ける風習
祇園祭にはヒオウギを生ける風習があるようです。
古代、悪霊祓いに使われたというヒオウギ。
どんな花なのかなと思っていたのですが、運よく役行者山の会所に飾られていました。
祇園祭のヒオウギ。
どこか妖艶な雰囲気を漂わせる花ですね。
毒々しいとでも言ったらいいのでしょうか。毒を以て毒を制す、そんな見た目のインパクトを感じさせます。ヒオウギの名前の由来は、その葉っぱが扇状をしているからだと言います。末広の扇は、昔から縁起物として知られます。さらにヒオウギの「ヒ」は漢字で「檜」と書きますが、大和言葉の感覚から言っても、「ヒ」という音にはただならぬ霊性が感じられます。
棺桶の棺(ひつぎ)にも、霊魂を継ぐ意味合いが込められています。古来より日本人が大切にしてきた「ヒ」という音。祇園祭を象徴する花であるヒオウギにも、同じような霊的メッセージが感じられるのです。
祇園祭のヒオウギの案内札。
ヒオウギは扇状の葉を持つことからヒオウギ(檜扇)と名付けられました。
祇園祭は、疫病が流行した869年6月7日に始まり、災厄除去を祈るために行われた祇園御霊会(ごりょうえ)です。
古代、ヒオウギで悪霊を退散したという言い伝えから、厄除けの花として飾られるようになりました。
御神体三体の写真も飾られていますね。
葛城山と大峰山の間に架けられたという石橋伝説。
吉野の吉水神社お詣りの際、鬼を従える役行者像を拝観致しました。鬼を自由に操るイメージのある役行者ですが、役行者山に伝わる伝説をここに記しておきます。
葛城山で修行をしていた役行者は、大峰山との間に橋を架ける計画を思い立ちます。
そこで、鬼神に命じて工事を開始したのですが、鬼神達は夜しか働かなかったために作業は遅々として進みませんでした。それに怒った役行者は鬼神達を責めます。すると、鬼神達は自分たちの主である一言主神が自らの姿が醜い事を恥じて夜しか動かないのだ答えました。
これを聞いた役行者は、一言主神が神であるにもかかわらず、これを縛して谷底へ置いてしまいました。
神の身でありながら辱めを受けた一言主神は自らの境遇を嘆き、都の人に憑依して、役行者には謀反の疑いがあると訴え出ます。これを受けた朝廷は役行者の母を人質に取り、役行者を絡め取った上で伊豆大島に流してしまいました。
役行者は流罪を経験しているのですね。
山のてっぺんに依り代の真松が見えます。
役行者は伊豆大島に流された後も、歩いて海を渡っては富士山に登って修行をしていたと伝えられます。
何ともタフな神様ですね。
役行者山からさらに北へ向かい、姉小路通に出た所で東へ向かいます。しばらく歩くと、大通りの烏丸通に出ます。烏丸通に出る手前の右側に、手拭いの手渡し所である鈴鹿山がありました。
鈴鹿山でもスタンプを押そうと思ったのですが、スタンプの押印所が見当たりません。
スタッフの方にお伺いすると、烏丸通を渡った反対側の烏丸通沿いにあるとのことで、信号待ちをして無事に鈴鹿山のスタンプも押印することができました。
行者石の傍らには瓦も置かれていました。
私が訪れた日は山鉾巡行当日ではありませんでしたが、十分に祇園祭の雰囲気を堪能することができました。
京都市中京区三条高倉の京都文化博物館に於いては、「山鉾巡行の歴史と文化」と題する展示が行われているようです。開催期間は8月23日の日曜日までで、入場料は大人500円となっています。祇園祭の歴史をさらに深く学んでみたい方にはおすすめです。
立派な蔵ですね。
7月21日から23日まで催された祇園祭後祭の宵山行事。
御池通~河原町通~四条通を通る後祭巡行は7月24日です。
それぞれの「山」の特徴をチェックしながら回る会所めぐりも楽しいものです。祇園祭の楽しみ方の一つとして覚えておきたいですね。
<祇園祭の関連情報>